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日本計量新報 2008年5月18日 (2724号)より掲載

私の履歴書 鍋島 綾雄  

日東イシダ(株)会長、(社)日本計量振興協会顧問、前(社)宮城県計量協会会長

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7 分銅とおもりの独占企業 2733号

 ハカリの錘おもりは銑鉄をキュウポラで溶かして砂型に流し込んで造るのだが、日本秤錘では普通の鋳物屋では使えないチンコロ(白銑)という銑鉄の3分の1の値段の材料を使って、しかも肌のきれいな錘を製造するという特殊な技術を持っていた。大正年間に先代が開発した技術だが、何しろ3分の1の値段の材料で、仕上がりもきれいだから全国何処のハカリ屋さんでも適わない。定量おもり・定量増おもり・分銅とも全国の需要を独占していた。

  戦後は物資不足の時代、即ち売り手市場だから物は造りさえすれば飛ぶように売れた。全国のハカリメーカーさんは、ハカリを造っても錘がなければ売ることができないので現金をリュックに背負ってすし詰めの満員列車を乗り継いで「日本秤錘詣もうで」にやってくる。景気のいいことこの上なく、給料は同級生の倍くらい、賞与は年4回であった。

  私は営業を担当させられた。売り手市場で大切なのは製品を造るための材料を集める仕入れ担当、即ち資材課の方が花形でそちらの方にベテランの優秀な人材が居た。北九州から闇のコークスを買い込んで貨車で運んで来るのだが、我々若手は早朝動員されて警察に見つからないように夜の明けないうちに工場に運び込む。

  一方、営業の方は営業とは名ばかりで、毎日検定が終わって上がってくる分銅や錘を全国の秤メーカーへ発送の手配をするのが主な仕事だった。錘が間に合わないと大変だから、メーカーさんは100個欲しいところを200個と注文してくる。こちらは注文数には到底生産が間に合わないから、そのメーカーのおおよその生産本数・生産台数を見抜いてそれに近い数量を出荷して、できるだけ満足して貰うようにしなければならない。営業ではそれを各メーカーへの「割り当て」と称していた。今の時代には考えられない嘘のような話だが、独占企業なるが故の実態だった。今の時代で言えばロードセルを独占して全国のメーカーに販売しているようなものである。

  この「割り当て」という仕事は長尾常務がやっておられたが半年もしないうちにすっかり私に任された。そのお陰で私は全国のハカリ屋の住所・番地・電話番号まで完全に暗記してしまったし、それぞれのメーカーの棒ハカリ・台秤・上棹うわかんのおおよその生産状況まで頭の中で把握出来るようになった。特殊な会社の特殊な立場のお陰で21才や22才の若さで全国のハカリ業界の地図に精通できて、これが私のハカリ屋人生の大きな財産になった。

 

(つづく)

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