2010年3月 7日(2812号) 14日(2813号) 21日(2814号) 28日(2815号) |
社説TOP |
日本計量新報 2010年3月28日 (2815号)
|
国の制度審議会は国民のために真っ当に機能しているか
法務省の法制審議会刑事法部会は、2010年2月8日に、殺人罪など時効を廃止する要綱骨子案を賛成多数で決定した。昨年1月に法務省内に発足した勉強会が、7月には時効廃止の最終報告を発表。政権交代後の昨年10月、千葉景子法相が公訴時効の見直しを法制審に諮問し、昨年11月からの実質3カ月間の審議で殺人罪の公訴時効廃止の方針が固まった。3月12日、刑事訴訟法改正案が閣議決定され、国会に提出された。
凶悪犯に対する厳罰化を求める世論の高まりを背景に急激に進む時効廃止の動きに対し、日本弁護士連合会(日弁連)は、現在の刑事訴訟法が無辜(むこ)の人を一人たりとも有罪にしないという基本思想に立脚して、現在の時効廃止に反対してきた。
日弁連は、時効が無くなると、被告人が自らを守る「防御権」が侵害されることが問題であると指摘する。被告人が事件から数十年経ってから起訴された場合、自らの無実を主張するための証人や証拠を提示するのは困難であるため、冤罪事件が多くなることが危惧される。
冤罪事件といえば、まだ記憶に新しい足利事件では、菅谷利和氏が無実の罪で十数年も服役を強いられた。再鑑定により遺留物のDNA型が一致しないことが判明し、2月12日に行われた再審第6回公判で無罪の論告がなされたが、同氏の苦しみは計り知れない。時効の廃止はこのような問題を生ずる危険性を孕んでいるため、慎重に討議されなければならない。
時効の廃止に反対する日弁連の委員は、対案として、法制審議会刑事法部会において犯行現場に犯人のDNAが残されているなど有力な証拠がある場合には、検察官が時効の停止・延長を請求できるようにすることを提案した。しかし、多くの委員の賛同を得られなかった。その理由として、法制審議会刑事法部会が立案者の法務省の意向が通りやすい仕組みにできていることが挙げられる。日弁連公訴時効検討ワーキンググループ座長で元法制審議会刑事法部会幹事委員の岩村智文(いわむらのりふみ)氏は、2010年2月20日の朝日新聞朝刊のインタビューにこたえて次のように述べている。
「法制審自身が、法務省の意向が通りやすい仕組みになっているんです。刑事法部会の15人の委員のうち、法務省官房審議官、法務省刑事局長、警察庁刑事局長、最高裁事務総局刑事局長ら、現場よりも官僚組織の幹部などに委員が割り当てられる『充て職』委員が6人もいる。彼らはいろいろ有益な意見、見識は持っているが、結局は採決の際、ほぼ法務省原案に賛成するんです。時効廃止を求めている『全国犯罪被害者の会』の代表幹事も委員なので、もう一人法務省寄りの学者が加われば、過半数です」
審議会は、国家行政組織法8条の規程を根拠に行政機関に設置され、行政への国民参加、専門知識の導入、公正の確保、利害の調整等を目的とするものである。本来の目的に沿って審議が尽くされるべきである。
◇
計量に関する事項を審議する審議会として「計量行政審議会」(計行審)が経済産業省に設置されている。計量行政審議会は、計量に関する重要な事項について、通商産業大臣の諮問に応じて答申し、または通商産業大臣に建議することを任務として、計量法の施行と併せ、1952(昭和27)年3月1日に設置された。
その後、計量行政審議会の任務は変更される。1999(平成11)年4月27日、中央省庁等改革推進本部における「審議会等の整理合理化に関する指針」に従い、審議会の任務等の見直しが実施された。これにより計量行政審議会は大きく性格を変えた。委員数の減少など審議会のスリム化も実施されたが、最大の変更点は計行審の任務に関してである。
計量に関する大きな枠組みの変更(法律改正など)については産業構造審議会へ移管し、特定計量器の種類、計量単位、特定商品の決定等の計量行政の実施の根幹に係る部分について引き続き計量行政審議会において審議することになった。従来は「建議」もしてきたが、「諮問に応じた答申」が本審議会の任務となった。政策立案型から法施行型へ、審議会の任務が変更されたのである。審議会の開催回数も年1回開催から、必要に応じ審議会を招集するという規程に変更された。
◇
計量行政審議会の運営は、法務省における法制審議会刑事法部会と違うのであろうか。いろいろ議論しても結局は経済産業省と担当官の意向に沿うような結論が出ていないか。もちろん、提案が妥当だからそのような結論が出るのであろうが、妥当でない考え方が大した批判なしに通過してしまう危険が存在することもありうる。もし、産業界や一部の事業者が声高に主張することや、そのことを代弁する組織や政治家が絡んだある種の運動が、計量行政審議会開催の動機付けになる事態が生じたならば、妥当でない考えが計量法と計量行政の仕組みを歪めてしまう恐れが生じる。
さきの計量行政審議会では、検定の実績が少ない、あるいはないという実態、また薬事法と計量法で「二重規制」になっていることを「解消」するなどの理由付けによって、いくつかの器種を特定計量器から削除するという方針が、答申された。
これらの審議では、他の事情による拙速審議や、岩村智文弁護士が指摘する傾向を排除して、慎重な審議が尽くされたのであろうか。その後の経緯なども考え合わせると、「特定計量器の種類」など計量行政の実施の根幹に係る部分について審議する計量行政審議会の目的・任務の重要性と、国の諸法令のなかで計量法の果たす役割について、改めて考える必要がある。
特定計量器の種類の見直しを審議した2009年度第1回計量行政審議会基本部会(2009年5月11日開催)で、山附O郎委員(東大名誉教授)が次のような発言をしている。
「計量というものを対象や分野を超えて横断的に見るという考え方が最も基本的にあるものだという理解でおりました。したがって、個々の法律ができてきたときにはそっちのほうに任せてもいいのではないかというと、これからどんどん計量の対象が減っていってしまって、計量自身が横断的なものではなくて、個々のそれぞれの分野で改良なり、固有の発達を遂げるローカルな技術ということになってしまいはしないかというおそれがある」
山譜マ員が発言したように、審議の流れにただ沿うのではなく、幅広い視野に立って議論を尽くすことは、大きな意義を持つ。
|
※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら |