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天びんの基礎知識(1)

(2961号/2013年4月21日掲載)
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特集記事

特集「天びんの基礎知識 原理編」では、現在多く使用されている天びんについて多角的に解説し、天びんの「今」に迫る。第1集は、電子はかりおよび天びんの荷重センサーに用いられている各種方式の基本原理と用途を概説。第2集では、正しい測定方法などについて触れる。


電子天びんの基本原理

荷重センサーはそれぞれに特性があり、はかりや天びんの用途によって選定される。
 電子天びんの主な方式には、電磁力平衡方式、ロードセル式、音叉振動方式などがある。このほか、電気式はかりに多用されている荷重センサーとしては、弦振動式、静電容量式など。
 研究開発の伸展で、精度や耐環境性能などが年々向上している。そして、とくに電子天びんでは、センサーだけでなく、使い勝手や環境条件の整備も含めた、トータルパッケージとしての性能向上が追求されている。

ロードセル式
〜安価で使いやすい、ハイブリッド型も〜

ロードセルとは、本来は荷重を受けて何らかの信号を出すユニットを指す用語であるが、日本ではロードセルといえばひずみゲージ式ロードセル(ストレンゲージ式ロードセル)ということになっている。
 ひずみゲージ式ロードセルは、質量あるいは力計測に多用されている荷重センサーである。ひずみゲージの変形する性質を利用したもので、起歪体そのものがはかり機構を有していることから構造が簡潔であり、応用性も高い。ロードセル式のしくみ(島津製作所WEBサイトより)
 ロードセルの表面にはひずみゲージが貼り付けられており、力を加えると、ロードセルとともにひずみゲージも変形する。ひずみゲージが変形すると抵抗値が変化する。このときロードセルに電圧を加えると、出力端子から抵抗値の変化に比例する電圧が出力される。こうして、力を電気信号に変換して測定値を算出する。
 抵抗の変化はそのままでは荷重に完全に比例するわけではないので、電気回路を工夫して荷重に比例するようにする。比例の度合いが精度であり、半導体技術の発達、優れたCPUの開発が比例の度合いを大きく高めている。電気信号から出る表示は指針の振れとしても取り出せるが、一般にはデジタル表示される。デジタル表示する場合にはA/D変換器を用いる。
 技術革新により高精度のものが登場しているが、構造と原理からその精度には限界がある。
 このことから、 ロードセルをセンサーに使った天びんが得意とするのは、次のような分野である。@精度の高さをそれほど要求しない安価で小型のはかり、A大型の天びん(はかり)の質量センサーとして活用されている。ひょう量値の大きなものでは100トン以上のトラック用はかりに使われる。
 また、性能の向上で天びんにも多く使われており、現在は、安価で使いやすい天びんはほとんどロードセル式センサーを使用している。

デジタルロードセルやハイブリッド型も

従来のロードセルと電子回路を一体化したデジタルロードセルもある。デジタルロードセルは、ロードセル本体に増幅部、A/D変換部、演算部を組み込み、デジタル信号を直接出力。指示計、ロードセルケーブルが温度影響を受けないので温度特性がよく、高精度、高安定を実現している。
 ひずみゲージ式ロードセルと電磁力平衡方式(後述)の支点、ビームを組み合わせたハイブリッドタイプの電子天びんを開発したメーカーもある。高分解能の電磁平衡方式とロードセル起歪体の高剛性という両者の長所を組み合わせたもので、応答性の早さ、高分解能、小型化、コストダウン、信頼性を実現している。

電磁力平衡方式
〜ワンブロック構造でより高精度に〜

電磁力平衡方式(電磁力補償方式、電磁式)は、機械式的なバランス機構に、位置検出器と電磁石を用いて荷重をつりあわせる機構のはかりである。荷重をつりあわせるときに要するフォースコイルに流れた電流の大きさから荷重の値(質量)を求める。
 荷重センサーとして精度面と安定性の両面で定評を得ており、精密級の電子天びん(あるいは電子はかり)の多くはこの方式を用いている。
 電磁力平衡方式は「零位法」で荷重や質量を求めており、ロードセル方式は「変位法」である。電磁式は天びん式であり、ロードセル式はばね式はかりと同じといえば分かりやすい。天びん式は既知の量とつり合わせて測定するのに対して、ばね式は既知の量と比例関係にあるばねの伸びの量によって測定する。
 電子天びんといえば、初期は電磁力平衡方式がすべてであった。近年、ひずみゲージ式ロードセルを使ったものが広く出回るようになったので、一般使用者には区別がつけがたい状況にあるが、精度からみれば、電磁力平衡方式のロードセル式に対する上位性に変化はない。
 計測機器の技術改良の多くは電子技術の進歩によるところが多いが、電磁力平衡方式天びんの性能向上に大きく寄与しているのが機械加工(ワイヤー放電加工)技術の発展である。
 つり合わせ機構とロバーバル機構を構成しなくてはならない電磁力平衡方式の電子天びんは、構造が複雑である。そのため、数十万分の一という高精度を実現するためには、バネ部品など個々の部品の吟味はもちろんのこと、細部にわたる微妙な組み立て調整作業が必要であった。また、部品ごとの膨張係数の違いによる温度特性誤差など構造的問題点があった。
 こうした弱点を克服するものとして開発されたのが、ワンブロック構造のひょう量セルである。

高精度・高安定のワンブロック構造

マイクロ電子天びんBM-20(A&D)ワンブロック構造のひょう量セルは、メーカーによって「ユニブロック」「モノブロック」「モノリスィック」などと名付けられている。
 メカニカルな稼働部分を高度切削加工技術によりワンブロックにすることで、部品点数が大幅に削減された。
 ワンブロック構造は、縦方向の衝撃に加えて横方向の衝撃に対する耐久力が飛躍的に向上。それは同時に性能の安定化をもたらし、測定分解能など、電子天びんの性能・品質を大きく向上させた。
 結果、質量測定は測定器自身の能力から離れ、使用する環境条件から受ける誤差要因が問題となる領域に突入している。

誤差要因低減へ

島津製作所のユニブロック天びんの誤差要因として、天びん自体の温度変化あるいは器内各部の温度分布などがある。電磁力平衡方式の場合は、つりあわせのために磁石とフォースコイルとが組み合わされており、これが温度変化の原因となって誤差を大きくするが、自動的に取り除く技術がほぼ確立されている。
 設置環境による誤差要因は温度、湿度、対流、静電気、振動、空気密度と関連しての浮力、磁気、電磁波、重力の加速度など項目が多い。またビルの高層階に設置した場合には、風によるビルの揺れが誤差要因になった事例も報告されている。
 静電気で発生した電荷同士のクーロン力も、測定誤差の要因である。静電気による誤差を避けるために、天びん専用の静電気除去装置も開発されている。静電気除去装置には直流電圧式のものと交流電圧式のものがあり、試料や容器に帯電した静電気を軽減・除去して計量を安定化させる。電子天びんは高精度になればなるほど、設計性能を実際の測定で発揮させることが難しくなる。
 原理的に、また設計上は精密に測定できるはずの天びんも、実際の測定において、その持っている性能をフルに発揮させることは難しい。
 その電子天びんが本来備えている性能を発揮させるためには、環境条件が大きな意味を持ってくる。そのため、天びんの性能を天びん単体でとらえるのではなく、環境条件も含めたパッケージとして考え、環境条件の整備をも含めた営業を展開するメーカーも出てきている。

音叉振動式荷重センサー
〜長期安定性、近年は分析天びんも〜

金属音叉は、両端に加えられた荷重の大きさに比例して、振動数が変化する。金属音叉振動方式はかりおよび天びんは、この原理を応用し、金属捧や弦の固有振動が、加えられた張力や圧縮力によって変化する現象を利用して荷重を求める。音叉振動式のしくみ(新光電子WEBサイトより)
 センサーは金属製の音叉とこれに荷重を伝達するリンク機構だけで構成される。荷重はデジタル量である振動数として直接取り出されるため、A/D変換器が不要である。
 音叉振動式は、ロードセルのようなひずみ計ではなく力計であり、測定範囲内で実際に発生する振動子の応力やひずみが小さいため、ヒステリシスが少なく再現性に優れている。また、電磁力平衡方式と異なり、電気を余り使わないため、原理的に防爆構造の天びんをつくりやすい。この特性を生かし、電子天びん、電子はかり使用上の困難とされていた、爆発性雰囲気下で使用を可能にする本質安全防爆構造の電子はかりとして、日本で初めて労働省(現厚生労働省)の認定を受けた。
 分解能は電磁式はかりに近く、ロードセルを凌駕しており、経年変化が少ないなど抜群の安定性を備えている。年々改良されて高精度の製品が開発されており、最近では精度でも電磁力平衡方式にせまるものが開発されている。
 音叉センサーの優れた特性は次のとおり。@再現性=金属の歪みを利用しない方式で再現性に優れる。A直線性=もともと得られる信号は非直線だが、安定しているため直線化の計算をマイクロコンピュータがすることで、ノンリニアを極小化できる。B温度特性=メカニズムの大半が単一の恒弾性材料の使用により構成されているため温度特性に優れる。C発熱が少ない=センサーや回路の消費電力が少なく、発熱は微少であるため外部機構に与える影響が少ない。また電源投入時のウォーミングアップも不要。D長期安定性=誤差要因が少ないため、特に長期安定性に優れる。
 この特徴が評価されて日本の文部省(現文部科学省)が2000年にハワイに設置した世界最大級の反射型天体望遠鏡「すばる」の鏡面支持機構にも、音叉センサー技術が採用された。

一体型で長期安定性向上

さらに、不確かさに影響する分解能、長期安定性を向上するため、一体型音叉式センサーが開発された。音叉振動子を取り込んだ構造になっており、組み立て時の残留応力やひずみによる再現性低下を解決した。軸方向の応力だけが音叉振動子に作用するので、精度も向上している。

音叉式の分析天びん

最近では、音叉式の分析天びんが登場。これまで、220万分の1レベルの計量性能を実現した天びんは、すべて電磁力平衡方式だった。しかし2007年、世界で初めて電磁力平衡方式以外のセンサーを搭載し220万分の1の計量性能(分解能)を実現する音叉式分析天びんが開発された。現在では、最小表示0.00001g(0.01mg)というレベルに達している。電磁力平衡式と音叉式の機能的な境界は徐々に曖昧になってきているといえる。

その他の質量計測方式

電子微量天びん

トートバンドによって支えられた可動コイル形電流計の指針を両方にのばした形でさおがつくられ、両端に計量皿が載せられた構造。
 皿に試料をのせると一方に傾き、コイルに試料の重量に対応した電流が流れる。この時の電流値から試料の質量を求める。試料と反対側の皿に分銅をのせ、たとえば0.1gまでは機械的に質量を求め、それ以下の微量範囲は電気的に測定する仕組みになっている。
 電気的な測定範囲は1mg〜1gくらいの各種レンジが切り換えによって得られ、最高0.1μg程度まで測定できる。

弦振動式

原理の基本は、音叉振動式と同じ。
 弦振動式センサを使用したはかりには、低価格でデジタル表示を実現した上皿台はかりと吊りはかりがある。

静電容量方式

荷重の変化をコンデンサーの極板のすき間の変化に変えて電子信号を取り出す方式。
 駆動電流が小さいことから乾電池電源で3000時間以上もの連続使用を可能にしており、デジタル式の体重計、料理用はかり、台はかりなどとして製品化されている。
 一般的な製品の精度は500分の1程度だが、もっと精度の高いものも。太陽電池を使用したはかりも実現されている。

磁わい式

磁わい方式は、透磁率の高い弾性体に荷重を加えると、ストレスで透磁性が変化する原理を利用したもの。弾性体に穴をあけ2つのコイルを入れ、2次側のコイルの誘導電圧が荷重に比例するよう構成されており、非常に大きな荷重を測定するような特殊領域で使用されている。

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