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2021トップインタビュー

豊田三喜男チノー社長に聞く

新中期経営計画でさらなる飛躍を

聞き手は高松宏之編集部長

日本計量新報 2021年1月1日 (3317・18号)16〜17面掲載

◎新しい形での顧客との繋がりを追求

――貴社の現況をお聞かせください。

■1920年度は不本意な結果に

 当社は、2018年度〜2020年度までの中期経営計画に沿って活動を進めてきました。

 18年度は国内外の経済活動も順調であったことから、当社も良い結果を残すことができましたが、19年度からは米中貿易摩擦などによる中国市場の伸びの鈍化や、さらには20年度には新型コロナの影響も少なからず受けた結果、19年度および20年度は、計画遂行の面からは不本意な結果となっています。

製造業の設備投資の見直しが影響

 当社の業績は、企業の設備投資に依存する関係がありますので、コロナ禍における各企業の設備投資の見直しや先送りなどの影響が、2019年度や2020年度には顕著にでています。

■DXに向けた半導体や電子部品関連の加速

 ただ、そのような中でも各企業では、DX(デジタルトランスフォーメーション)に向けたデジタル技術の利活用が進んでいます。

 それは、新型コロナ禍でさらに加速されています。

 このような背景のもと、20年度後半に半導体や電子部品関連が、また自動車の生産も持ち直してきています。

 当社は、この分野のお客様の生産活動にも協力させていただいていますので、上期の落ち込みをある程度下期に挽回できました。

計測制御技術が貢献できる分野が広がっている

 加えて、今年度は国をあげて脱炭素社会の実現に向けての機運が高まっています。

 企業も水素や再生可能エネルギーの利用や生産の効率化等への取組みを強化するなど、脱炭素に向かった活動を促進していますので、今後、当社の計測制御技術が貢献できる分野も広がっていくことになると考えます。

 そこでは、顧客の課題把握と当社がそれに対する価値をどれだけ提供できるかということがキーとなります。

 具体的には現在では、生産現場での課題を温度計測・制御・監視の製品やシステムによってソリューション価値を提供できるように提案と受注の活動を展開しているところです。

守りと攻めの経営で

 世界的にSDGs(持続可能な開発目標)達成の使命を果たすことと、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した事業戦略が経営課題となっています。

 当社も、守りと攻めの経営で、このような課題にしっかりと取り組んで、収益に結び付けていかなければなりません。

 特に環境問題などでは、当社のように顧客のサプライチェーンのなかでBtoBの事業を展開している企業は、しっかり対応していかないといけません。

 脱炭素関連では、これまでの経済価値の他に、社会価値、環境価値というものをしっかり示して、いわば攻めのESG経営が求められます。大上段に構えることができる企業ではありませんが、しっかりと対応していきたいと思います。

■Web商談やリモートワークの活用強化

 当社は、お客様の現場に密着をモットーに活動していますが、新型コロナ禍でリアルにお客様と接点を設けることができない状況が続いています。

 この状況に対する工夫が必要です。

 当社は以前より、業務改善のためにITインフラとその活用の仕組みの整備を進めており、DXに向けての投資もしてきました。

 そのため、新型コロナ禍においても、お客様および社員の新型コロナウイルス感染症の感染リスク軽減のためのWebを利用した会議や商談およびセミナー、業務上でもリモートワークや情報獲得と発信などが、まだ不足している部分もありますがスムーズに対応することができていると思います。

リモートでお客様とどう繋がるか

 今後大事なのは、如何にリモート環境でもお客様と密接に繋がっていくのかを、情報発信を含めてしっかり考えていかなければなりません。

 まず、情報を集めることから始まりますが、その集めた情報を分析する力、そして実活動に迅速に結び付けていけるよう、智恵を絞っていかなければなりません。

 現在、新型コロナ禍の状況にあるからこそ、お客様においては、当社との工夫ある現場に密着した接点を望んでいると感じています。

 2020年度の状況は、連結売上では昨年度同等となっています。20

売上高は、前年同第3四半期比3.0%増

213月期第3四半期では、売上高は1417700万円(前年同四半期比30%増)となりました。

 グループ会社との連携では、グループ会社共々成長できるようシナジー効果を出していかなければならないと考えています。

 通期では、売上高202億円、前年度比19%減を予想しています。

営業利益は落ち込む

 通期の営業利益は、88000万円、143%減。経常利益は、95000万円、436%減と予想しています。

 これは期初、海外の経済活動が日本以上に新型コロナ禍の影響を受けたことによるものです。

中国、韓国市場の落ち込みが影響

 当社の海外現地法人は1月〜12月の決算ですので、現在、中国市場は新型コロナ禍からの回復傾向にありますが、上半期が大きく影響を受けました。

 当社の海外売上ではウエイトが高い中国や韓国が、上期に芳しくなかったために、連結決算に影響がでています。

変化は当社発展のチャンスにも

 計測制御監視に関わるループのなかで、どのような組み合わせがお客様にとって最適であるかというような、いわゆる、組み合わせによるイノベーション、つまりシステム的なイノベーションも大事なことです。

 当社の強みを活かせる良い機会だと思います。

 そのためには、さまざまな情報を獲得して、それを判断し、行動に落とし込む活動が重要になります。

 当社が培ってきた技術や知恵をもとに、お客様の課題をいち早く把握して貢献できるように開発・生産・販売が全社一体となった活動をして、変化をチャンスに結び付けていきたいと思います。

潜在的ニーズを深掘りして製品化

――最近、新製品を矢継ぎ早に発表されていますね。

 お客様の要求や社会の変化へのスピード対応に努力してきましたが、やっとその成果が出ていると思っています。

 たとえば、航空宇宙関連部品の熱処理工程での要求事項であるAMS2750Fへの対応を支援する「AMS2750F支援機能付きグラフィックレコーダKRシリーズ」や今まで測定が難しかった反射率の低い測定対象物の水分、フィルム厚さ、溶剤系塗工量などを安定して測定することができる「赤外線多成分計 IMシリーズ」を202012月に発売しました。

 これらは、現場でのお客様の課題を把握し、また市場の動向なども分析して製品化したものです。

 このように、お客様や市場に対して課題を解決できる製品を次々に提案していきたいと考えています。

 重ねて申し上げるようになりますが、顕在化しているニーズではなく、潜在的なニーズも深掘りしていきます。

 お客様における付加価値や支援策を、どのような形で対応していくかを常に考えて発信していく必要があります。

 それらに対して、チノーが、営業的にも技術的にもきちんと対応して、お客様へきめ細やかなアドバイスをできるように、お客様のことを常に考えたソリューションの提案を進めていきたいと考えています。

新しい中期経営計画を策定

――新しい中期経営計画をつくられますね。

 現在の中期経営計画は、2020年度までの計画です。

■2026年度は設立90周年

 2021年度〜2026年度までの中期経営計画(新中計)を策定しています。2026年度は当社設立90周年になります。

新中計はフェイズ分けして策定

 6年間を3年区切りで、前半をフェイズ1、後半をフェイズ2としています。

 2021年度〜2023年度までのフェイズ1で成長のための基盤を整備・強化をしていきます。2024年度〜2026年度のフェイズ2で、フェイズ1での基盤を基に成長を加速させていこうというものです。

 現中計の目標実現へ向けて取り組んできましたが、この中期経営計画の推進内容が全社の隅々まで行き渡っていなかったのではと反省しています。

 そこで、新中期経営計画では、経営にも近く現場にも近い立場にある部課長クラスの人たちに参画してもらい、変化の激しい中にある当社のありたい姿を議論しました。

 この議論を踏まえて、フェイズ1、フェイズ2をまとめています。

 新中計は、20214月には発表する予定で、現在まとめているところです。

新中計も両輪で進める

 成長の種をまいて花咲かせることとチノーのコア事業を確実に伸展させるという、両輪で進めていくという基本は現中計と変わりません。

 それを、各事業部門でどう進化させて展開していくかということを、具体的に練り上げています。

海外事業のより一層の進展図る

 海外事業をより一層進展させていくかも、当社事業のなかで重要な課題です。

 中国、韓国、台湾などは、産業的に規模の大小はありますが日本とほぼ相似しています。

 各社が注目しているインド市場やASEAN市場もしっかり押さえていかなくてはなりません。

社会に貢献する

 この中期経営計画のなかで何より重要なことは、社会に貢献するという当社の企業理念をしっかり実現ていくことです。

 ここをしっかり踏まえて新中計を進めなければなりません。

温度を軸に

 事業活動の基本は「温度を軸に」ということになります。

 DXやグリーンでも、まず温度のみならずセンシング技術がキーファクターのひとつだと思います。

 そして、アナログ量をデジタルデータに変換する計測技術や、また得られたデータで対象がどういう状態にあるのかということを判断して制御する技術なども重要だと思います。

 これらのループソリューションが生産現場では大事なところでもありますので、このループをしっかり形成できる製品やシステムの供給を事業の軸に据えていきます。

温度は工業用物理量の基礎

 一般的に産業で使われる物理量では、50%〜60%を温度が占めると言われています。

 その温度に関して、信頼性高く計測・制御・監視の技術を提供してお客様に貢献していくことが、当社の社会に対する役割だと考えています。

デジタルデータの処理技術

 アナログからデジタルに変換したデータがお客様における課題解決に役立つように、どのような形で提供するかをお客様と共有化・共創化していくことが今後、より重要になってきます。

 また、市場とのかかわりでは、コストパーフォーマンスの最適化なども課題になります。

 DXが世界的に進む中では、当社としてもデジタル技術のスキルも向上させる必要があるということになります。

生産技術に自信

――チノーの生産体制はどのようになっていますか。

 生産は現在、山形事業所が重要な役割を担っています。山形事業所で部品調達や基板の製造などを行い、各事業所で製品に組み上げるという体制になっています。

 当社は中国にも生産工場がありますが、主に中国市場で販売している製品はそこで生産するという、いわゆる地産地消化を確立しています。

 国内と同じ設備と技術で生産管理していますので、国内と同じような品質で製品を中国市場に供給することができるようになっています。

アピール力をつけて社会貢献

 社会や様々な産業における温度の計測・制御・監視といった技術は重要性を増していると思います。

 チノーとしても社会貢献できることやお客様に貢献できることを示して、積極的にアピールすることも社会貢献上重要であると考えています。

――ありがとうございました。

◎会社概要

▽会社名:株式会社チノー(CHINO CORPORATION

代表取締役社長執行役員:豊田三喜男

事業内容:計測制御機器の製造・販売、計装工事

会社設立:1936年(昭和11年)81

資本金:429200万円

東京証券取引所第1部上場

従業員数:671名(20203月末現在)

子会社・関連会社:チノーソフテックス、三基計装、浅川レンズ製作所、アーズ、アドバンス理工、明陽電機、CHINO Works America Inc.CHINO Corporation India Private Limited、千野測控設備(昆山)有限公司、上海大華−千野儀表有限公司、韓国チノー、CHINO Corporation Thailand Limited

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