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計量計測分野における国際組織と国際比較の役割
3rd February, 2000.
計量研 今井 秀孝
現状の認識
西暦2000年を迎えるに際して、我々人間は自らが作り上げた情報化社会の大きな産物であるコンピューターに関連する問題で大いなる実験と心配をしたことになる。すなわち、人間からみればいたって単純とも思える課題をも含めて、コンピューター依存の機器やシステムにおいて安全・保全管理の面から試されたともいえるのではないか。結果的には、細かい問題を除けばおおむね良好な経過のようで、用意周到ともいえる準備体制の成果とみるべきであろう。しかし、今回の経験を何事もなかったとして忘れてしまうのではなく、この準備と実験の成果の蓄積を何らかの形で残すことを期待したい。
我々の計量計測の世界でも、「何の問題もなく測ることができて当たり前」と思われているようであるが、そのような状況が得られるまでの多大な準備、確認と経験を大切にして、その過程の記録を実績として残し、正当に評価できるようにしたいものである。
さて、昨年までの計量界では、メートル条約、法定計量、工業標準化などいろいろな分野で国際的な基準認証や相互承認に関連する課題がとり上げられて、多くの準備がなされた時代であったと考えられる。今年、2000年は数字の上だけでなく、世紀末、21世紀への助走の1年として、実践と実証を含めた仕上げが求められる大切な年と考えられる。
1.国際的連携の必要性 ・国際組織がなぜ必要か: Blevin Report(メートル条約)、 Birkeland Study(法定計量)
・GlobalとRegionalな位置づけ:中央集中と地域分散
・国際ルールの制定:Global MRA、ISO/IEC 規格・ガイド2.国際組織の現状 ・メートル条約: CIPM/BIPM、量別諮問委員会、中央・ 地域の合同委員会(JCRB)
・法定計量:OIML/CIML、TC・SC活動
・適合性評価:規格及びガイド作り;ISO/CASO、
ISO/REMCOの活動3.国際比較の役割と位置づけ ・国際比較による実証:Key comparisons
・国際比較の結果の活用: Database 化4.国内活動の国際整合化 ・国家標準の拡充と整備:知的基盤の整備、独立行政法人化 と連動
・認定認証関連の活動:JCSS、JNLA、JAB5.今後の課題 ・国際組織における日本の役割:先進対応と地域対応
・APEC傘下の計量活動:APMP、APLMF、APLAC、
PASC、PAC
1.国際的連携の必要性(略)
2.国際組織の現状
1)国際計量基本用語集(VIM)と不確かさ表現のガイド(GUM)の編集・発行:7機関
・国際度量衡局/国際度量衡委員会(BIPM/CIPM)
・国際法定計量機関(OIML)
・国際標準化機構(ISO):発行機関
・国際電気標準会議(IEC)
・国際純正応用化学連合(IUPAC)
・国際純粋応用物理学連合(IUPAP)
・国際臨床化学連合(IFCC)
合同会議/JCGM:Joint Committee for Guides in Metrology、上記7機関で構成
GUM(WG1)、VIM(WG2)の改定を検討中
・国際試験所認定会議(ILAC): JCGMに参入の予定
2)メートル条約の組織
国際度量衡総会/CGPM: 加盟48ヶ国、準メンバー制を新たに導入(1999)
国際度量衡委員会/CIPM: 18名の委員で構成
国際度量衡局/BIPM: 研究機関と事務局機能(約70名)
10諮問委員会/CCXX:長さ、時間・周波数、質量関連量、測温、電気磁気、 測光・放射、放射線、物質量、音響・超音波・振動、単位
WG活動:力、圧力、密度、湿度、粘度、硬さ、流量
JCRB:Joint Committee of the Regional Metrology Organizations and the BIPM
RMO:APMP、EUROMET、COOMET、MENAMET、SADCMET、SIM
3)OIMLの組織
国際法定計量機関/OIML: 加盟57カ国
国際法定計量委員会/CIML: 加盟国委員で構成
国際法定計量事務局/BIML
技術委員会・作業委員会/TC・SC
国際勧告・技術文書の作成
開発会議:途上国対応
4)ISOの組織
総会: 加盟134カ国(正:90、通信:35、購読:9)
理事会: 諮問委員会: CASCO(適合評価)、INFCO、COPOLCO、DEVCO
技術管理委員会/TMB: 専門委員会/TC、REMCO(標準物質委員会)
3.国際比較の役割と位置づけ
1)従来の国際比較の意義
最高精度の確認: 理論と実際の確認、学術的意義/チャンピオンデータ
関係国間の実力評価: 技術能力の証明
2)現在の国際比較の意義と役割
メートル条約におけるグローバルMRA(相互承認協定)と連携
・国家計量標準の同等性の確認[MRAの第一の目的]
・校正証明書発行の根拠: 信頼性評価を付与(不確かさ表記)[第二の目的]
・グローバルとリージョナルの連携
CIPM Key comparisons, RMO Key comparisons, Supplementary comparisons
・計量標準機関の品質システム管理を重視: 管理システム評価、技術能力評価
・比較データ評価の定式化: RMO内評価→JCRBでの評価→CIPMでの評価 →国際データベースへの登録
・国際相互承認の根拠: 国際データベースの活用
3)種々の国際比較
3-1 メートル条約
・CIPMによる基幹比較
・RMOによる基幹比較(APMP等)
・RMOによる補完比較(APMP等)
MRAにおける付属書の記述内容
A:グローバルMRAに参加する国家計量機関とそのロゴ、署名者の一覧
B:CIPM基幹比較・PMO基幹比較・RMO補完比較の結果
宣言した量の各値と不確かさ、基幹比較の参照値とその不確かさ
参照値からの偏差とその偏差の不確かさ、参加機関相互の同等性
C: 量、校正対象及びタイプ、校正の範囲及び単位、校正条件とその値、
拡張不確かさ(95%)、参照標準器、トレーサビリティ、国際比較のリスト
D:基幹比較のリスト
E:RMOとJCRBに委託される事項
3-2 OIMLによる国際比較
・型式試験の相互承認を目的: OIML計量証明書制度
・二国間比較における技術確認: 日本/NRLM−オランダ/NMi(非自動はかり)
日本/NRLM−ドイツ/PTB(非自動はかり)
予定: 日本−イギリス、日本−韓国
3-3 試験所認定会議による国際比較
APLACによる国際比較
4.国内活動の役割と位置づけ(略)
5.今後の課題
・国際組織における日本の役割: 先進対応と地域対応
・APEC傘下の計量活動: APMP、APLMF、APLAC、PASC、PAC
1)国内組織の整備と充実
日本学術会議: 第5部標準研究連絡委員会
通商産業省: 計量行政審議会
基本政策部会、計量標準部会、計量士部会
計量研究所、物質研、電総研、製品評価技術センター
認定機関: JCSS(校正機関)、JNLA・JAB(試験所認定)
工業技術院: 国際計量研究連絡委員会、知的基盤整備特別委員会
・国内外の組織体系:標準供給/トレーサビリティ:JCSS
現場の計量器→事業所内標準室→計量検定所・検査所・認定事業者→国家標準→国際標準
・計量法、工業標準化法、OIML国際勧告
品質システム要求: 管理文書(管理マニュアル)、技術基準(技術文書)
校正証明書、試験成績書
2)国際組織での活動
メートル条約: CGPM、CIPM、CCXXでの応分の役割/MRAの実施
OIML関連条約: 型式承認試験結果の相互承認
ISO・IEC: 適合性評価の実践/試験所認定、製品認定、技量の認定
ISO/CASCO(適合評価委員会)
ISO/REMCO(標準物質委員会)
3)APEC傘下/アジア太平洋地域での計量活動
APMP(メートル条約関連): 議長国/事務局:NRLM
CIPMの諮問委員会との連携:TC
執行委員会活動、JCRB(合同委員会)での活動
APMP基幹比較及び補完比較の実施
技術基準の策定と技術審査、
APLMF(法定計量関連)
執行委員会での活動
APLAC(試験所認定関連)
技能試験への支援、技術審査への参画
PASC(工業標準化関連): 議長国
PAC(品質システム認定関連)
共通の概念/ことばと意味
・知的基盤とは
科学技術に関連する知的資産が組織化され、研究開発活動、経済活動の円滑化・促進のために広く経済社会に体系的に提供されるもの。
・知的資産
科学データ,計測方法(試験評価)、計量標準・標準物質
・適合性評価:各種の試験や検査により製品や方法、サービスが所定の要求を満たしているかを評価するシステム
Keywords:検査、試験、校正、品質システム、品質保証、トレーサビリティ、不確かさ、国際比較、技能試験、適合性評価、相互承認、環境監査、校正証明書参考文献
1)国際情勢
・今井秀孝:計量標準の分野における国際的動向−相互承認への関心の高まり−、計量研ニュース、Vol.47, No.6(1999), 1/2.
・計量分野の国際関連図(前出)
・今井秀孝:計量計測分野における国際相互承認制度の最近の動向、第18回国際計量計測展:Interneasure'98特別講演会(1998年4月)
2)計量研究所紹介
・今井秀孝:計量研究所の現状と将来展望:工業技術、Vol.40,No.8(1999), 5/8.
・計量研究所の概要:要点メモ(後出)
3)知的基盤整備関連
・産業技術審議会・日本工業標準調査会合同会議、知的基盤整備特別委員会中間報告、 1999年12月.
4)国際会議等
・今井秀孝:第21回国際度量衡総会とグローバルMRAへの署名:計量研ニュース、Vol.48, No.1(2000), 1/3.
・瀬田勝男:第15回APMP総会及び関連会議出席報告:計量研ニュース、Vol.48, No.1(2000), 5/7.
・APMPの紹介: パンフレット
5)計量単位
・今井秀孝:計量単位の現状−SI単位への完全切替え-、標準化と品質管理, Vol.52,No.10(1999), 4/9.
・国際単位系(SI)第7版日本語版、計量研究所訳・監修、日本規格協会(1999).
6)不確かさ評価
・今井秀孝編集:計測の信頼性評価−トレーサビリティと不確かさ解析−、日本規格協会、1996年1月発行.
・飯塚幸三監修、今井秀孝編集:ISO国際文書「計測における不確かさの表現のガイド」統一される信頼性表現の国際ルール、日本規格協会、1996年11月発行.
・今井秀孝:計測における不確かさ表現の歴史的経緯と展望、計測と制御、Vol.37, No.5(1999), 300/305.
・今井秀孝:「誤差・精度」から「不確かさ」へ:信頼性表現の統一に向けて、精密工学会誌、Vol.65,No.7(1999), 937/940.
ISO/IEC 規格及びGuide類(主なもの)
[参考資料]
ISO/CASCO(適合評価委員会)の活動: 認定・認証関連
ISO/REMCO(標準物質委員会)の活動: 標準物質の認証と技術基準の作成
品質マネジメント(品質システム管理)
ISO 9000-1 (JIS Z 9900) 品質管理及び品質保証の規格-選択及び仕様の指針-
9001 (JIS Z 9901) 品質システム−設計、開発、製造、据付け及び付帯サービスにおける品質保証モデル
9002 (JIS Z 9902) 品質システム−製造、据付け及び付帯サービスにおける品質保証モデル
9003 (JIS Z 9903) 品質システム−最終検査・試験における品質保証モデル
9004-1 (JIS Z 9904) 品質管理及び品質システムの要素−指針
10006 (JIS Q 10006)品質マネジメント−プロジェクトマネジメントにおける品質の指針
環境マネジメント(環境監査)
ISO 14001 (JIS Q 14001) 環境マネジメントシステム−仕様及び利用の手引き
14004 (JIS Q 14004) 環境マネジメントシステム−原則、システム及び支援技法の一般指針
14010 (JIS Q 14010) 環境監査の指針−一般原則
校正機関・試験所の認定
ISO/IEC Guide 22: 供給者による適合宣言
ISO/IEC Guide 25 (JIS Z 9325) 校正機関及び試験所の能力に関する一般要求事項
Guide 58(JIS Z 9358) 校正機関及び試験所の認定システム−運営及び承認に関する一般要求事項
Guide 43-1(JIS Z 9343-1) 試験所間比較による技能試験 第1部:技能試験スキームの開発及び運営
Guide 43-2(JIS Z 9343-2) 試験所間比較による技能試験 第2部:試験所認定による技能試験スキームの選定及び利用
審査登録機関及び製品認証機関の認定
ISO/IEC Guide 61 (JIS Z 9361)認証機関及び審査登録機関の認定審査ならびに認定機関に対する一般要求事項
Guide 62(JIS Z 9362) 品質システム審査登録機関に対する一般要求事項
Guide 65(JIS Z 9365) 製品認証機関に対する一般要求事項
Guide 67:相互承認の方法
標準物質
ISO Guide 30 (JIS Q 0030) 標準物質に関連して用いられる用語及び定義
Guide 31 (JIS Q 0031) 標準物質の認証書の内容
Guide 32 (JIS Q 0032) 化学分析における校正及び認証標準物質の使い方
Guide 33 (JIS Q 0033) 認証標準物質の使い方
Guide 34 (JIS Q 0034) 標準物質の生産のための品質システム指針
Guide 35 (JIS Q 0035) 標準物質の認証−一般的及び統計的原則
計量研究所の研究・業務内容と最近の活動
2000年1月現在.
平成11年度定員:204名(研究131、行政73:技術行政を含む) 予算:約38億円
4研究部(量子、熱物性、力学、計測システム)、大阪計測システムセンター、
総務部、研究企画官、首席研究官(2)、国際計量研究協力官、
統括標準研究調査官、計量標準管理官、産学官連携推進センター
1計量標準の確立に関する研究 :国内標準整備と国際整合化
国際的に整合性のとれた国家計量標準を設定し(メートル条約)、それを維持・供給することにより国内のトレーサビリティ体系(JCSS)を確保する。さらに、次世代を目標に入れた新しい計量標準を開発する先導的研究を行う。
SI基本単位の実現:長さ(m)、質量(kg)、温度(K)、時間(s)、物質量(mol)
SI組立単位及び工業量:力(N)、圧力(Pa)、体積、流量・流速、密度、粘度、
[SI:国際単位系] 湿度、角度、速度、加速度、振動、硬さ、衝撃値、幾何形状、材料物性値(光学的、力学的、熱的)、物性標準物質、標準データの取得、データーベース(データーセット)
2計測技術の開発と試験方法の研究[科学・技術の基盤]
共通基盤的あるいは国として先導的に取り組むべき高度計測技術・試験技術の開発
・縦割り的技術:量子力学、光エレクトロニクス、機械計測、流体計測、材料計測、超音波計測、電磁気計測、・・・
・横断的技術:計測数理工学(統計数理)、品質工学、情報工学、画像工学
・極限計測技術:超高温、極低温、超高圧、高真空、微小光学、マイクロ(ナノ)マシン技術、ナノメトロロジー
[例]磁気浮上方式の質量標準、アボガドロ数の決定、原子泉方式時間標準
3計量法に基づく検定検査業務 [日常生活に密着]
・基準器検査:質量計、温度計、圧力計、体積計、密度計、濃度計、・・・
・型式承認試験:ガスメーター、水道メーター、タクシーメーター、・・・
・国際相互承認:OIML(国際法定計量機関)証明書制度、国際勧告への対応
・都道府県の計量検定所との連携: 工場、商店等の計量器の信頼性確保
4.国際的な活動(Global and Regional )[国家代表性]
・メートル条約:国際度量衡総会(1999年10月)、国際度量衡委員会・同諮問委員会
・OIML関連条約(国際法定計量機関)国際法定計量委員会
・ISO(国際標準化機構):適合評価委員会(CASCO)、標準物質委員会(REMCO)
・ILAC(試験所認定協議会)
・APEC(アジア太平洋経済協力会議)傘下の計量関連活動
APMP(メートル条約関連) :1999年11月より議長国
APLMF(法定計量)、APLAC(試験所認定)、PASC(工業標準化)、PAC(品質システム)
5.当面の課題
・国際比較(基幹比較)に基づく国家間の相互承認(MRA)
・国内計量標準の整備と拡充(JCSS/トレーサビリティ)
・アジア太平洋地域のリーダーとしての役割分担
計量計測分野の最近の動向
・計量法の改正と施行(1993年)
JCSS(Japan Calibration Service System)の創設
長さ、温度、質量の国家標準の設定と供給開始
その後、力、圧力、振動加速度を追加 (1997年)
湿度、流量・流速、硬さを追加 (1998年)
・APEC関連会議(1995年 大阪宣言)
2005年(主要国2000年)までの相互承認計画
メートル条約(APMP)、法定計量(APLMF)、試験所認定(APLAC)、工業標準化(PASC)、品質システム(PAC)の5分野
・科学技術基本計画(1996年)
計量標準・標準物質の整備、人材確保、支援体制整備
知的基盤整備特別委員会の設置・報告書作成(1998年)
計量標準センターの開所(1998年)
国際計量標準センター(2000年:予定)
標準物質センター(2001年:予定)
・JIS法の改正(1997年)
JISに基づく試験所認定制度の発足/JNLA
評定委員会の活動、審査員研修制度
APLACによる認定(JNLA、JAB:1998年)
・日本学術会議第5部の提言(1997年)
計量標準研究の重視、国家的支援体制の確立
IMEKO世界大会の日本開催(1999年6月、大阪)
・アジア太平洋地区国際会議の日本での開催(1997年)
APMP/1996年)、APLMF/1997年、APLAC/1997年
メートル条約 法定計量 試験所認定
・メートル条約に関する計量標準研究所長会議(1997年、1998年)
国家計量標準の同等性の相互承認、校正証明書の相互承認を目指す
基幹国際比較の実施/結果の信頼性評価:国際トレーサビリティの重視
・第21回国際度量衡総会とグローバルMRAへの署名(1999年)
地域計量組織(APMP等)と国際度量衡局の役割分担/JCRBの設置
第21回CGPMにてMRAの署名(1999年10月)
APMPの議長国就任(1999年11月、NML→NRLM)