トルクのSI単位表記

               

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 久慈 俊夫(研究開発部 製品科学技術グループ TEL 03-3909-2151)

はじめに

 機械技術分野の基本的な量として“トルク”があります。トルクは、軸に作用する力と軸から作用点までの距離との積(力×距離)で表され、回転部分を有する機械の設計を行う上で重要な量です。
 さて、トルクの単位ですが、従来は、機械設計の分野では長い間重力単位系である(kgf・m)が使用されてきました。 しかし、1993年11月に施行された新計量法は、SI単位系(国際単位系)を採用し、1999年10月1日以降は、非SI単位系を「取引や証明に使用してはならない(第8条第1項)」と定めています。これは、罰則規定を伴う法律で、違反すると50万円以下の罰金と定められています。契約書、仕様書、官公庁への提出書類なども対象となるので注意が必要です。
 したがって、トルクの単位も今後は、力のSI単位系であるニュートン(N)を用いて、(N・m)と表記しなければなりません。1Nは質量1kgの物体を1m/sの加速度で動かす時の力(1N=1kg・m/s)です。
 


トルクとは

 JISの用語に“トルク”という単独の用語はなく、「締付けトルク」、「定格トルク」のように他の単語と組み合わせた用語になっています。
トルクは、力学的には、図1に示すように回転軸まわりの力モーメントT=F・Rのことであり、設計の分野でこれを“トルク”と称しています。
 
図1 回転軸まわりの力のモーメント
 
 私たちの周りには、“トルクを加えられて動くもの”と“トルクを発生するもの”があります。前者は、機械装置の機構やラジオの回転ボリューム、ドアノブなどです。後者は、アクチュエータで具体的には、モータ、エンジン、人間などです。
 


回転させるのに必要なトルク

 遊園地の観覧車が大人気のようです。あの観覧車も回転する機械で、モータを動力にしています。どれくらいの出力のモータが必要なのでしょうか。そのためには、 観覧車を回すためのトルクを知る必要があります。観覧車を回すためのトルクT(N・m)は、一般的には次のように考えることができます。
      T=T+T+Tr      (1)
  T:摩擦などによる定負荷トルク
  T:加速に必要なトルク
  T:空気抵抗など回転速度によって変化するトルク
 観覧車は、風車のように速く回りませんので、 ここではTは考えないことにします。
  Tは、図2のようにトルクセンサを用いて測定することができます。停止している観覧車を非常にゆっくり回し始め、定速度で回転するようになった時のトルクがTになります。原理的な方法では、水平位置にある観覧車のボックスに重りを少しずつ載せ荷重を加えます、回り始める時の荷重と回転軸中心からのボックスの距離との積からおおよその Tを求めることができます。
 
図2 トルクの測定方法
 
   Tの測定は、実はなかなか難しく、どのくらいの時間で停止から一定の回転速度まで到達させるか(角加速度の大きさ)によって変わってきます。
 T(N・m)は、(2)式のように表されます。
        
    T=I・ω            (2)
     I:慣性モーメント(kg・m)
    
    ω:角加速度(rad/s)
 そのため、設計の段階で慣性モーメントIを計算し、設計上の角加速度を用いて加速に必要なトルクを求め、駆動モータの選定を行います。(2)式から、観覧車の慣性モーメントIが小さければ、トルクも小さくてすむため、Iを小さくするような機構を設計することが重要です。
 


慣性モーメント

 慣性モーメントは、直感的に解りにくい量ですが、直線運動における質量に相当します。直線運動では、質量m(kg)のものを加速度α(m/s)で動かすのに必要な力
F(N)は、(3)式ように表せます。
      F=m・α           (3)
 式(3)は(2)式と似た形をしています。つまり、慣性モーメントは、回転運動における動かしにくさ、止めにくさを表す量と理解できます。
 さて、重力単位系では慣性モーメントを求めるのに、GD(ジーディースクエア)という量を慣用的によく用いています。例えば、図3のような回転体のGD(kgf・m)は、
        1
    GD=−WD         (4)
        2
となります。W(kgf)は、日常的に使用している重量であり、D(m)は、測りやすい直径のため機械設計の分野で利用しやすかったのです。 GDから慣性モーメント
I(kgf・m・s)は、(5)式のように求められます。
       GD
    I = −       (5)
       4g
   g:標準重力加速度(9.80665m/s)
 各種形状のGDを求める式は、便覧などに一覧表があり設計の現場で容易に使用することができます。ところが、それらの式は、重力単位系の計算式です。今後は、設計でもできる限りSI単位系を使うことになりますので、従来のGDの式は利用できなくなるのでしょうか。
 それらは、次のように換算することによって使用することができます。図3の質量m(kg)、半径R(m)の回転体のSI単位系における慣性モーメントJ(kg・m)は、(6)式のように表せます。
       1
    J = −mR        (6)
       2
 (4)式と(6)式の比較から、重力加速度gの誤差が無視できる範囲では、質量1kgの物体は、重量1kgfを生じるので、GD の値を半径と直径の比の2乗である1/4倍して、SI単位系における慣性モーメントの値に換算して使用すればよいのです。このときの単位は、もちろん、kg・mとします。
 
図3 回転体の慣性モーメント
 
 
 

トルクセンサの種類

 トルクセンサは、トルク変換器ともいわれ、測定原理によって、(a)ひずみゲージ式、(b)磁歪効果式、(c)位相差検出方式、(d)機械的反力式などがあります。(a)〜(c)は、いずれもセンサ内の軸のねじれ角とトルクが比例することを利用したもので、ねじれ角の変位量をそれぞれの方式で検出するものです。(d)は、コイルばねを介して動力を伝達させ、トルクの大きさとコイルばねのねじれ角変位が比例することを利用するものです。 
 


おわりに

 トルク測定は、@測定対象物によって各種容量のセンサを準備することが必要、A測定対象物毎に、測定物、センサ、モータの軸心を一致させるための治具製作や軸径の異なるカップリングの調達が必要であるなど、事前の段取りやコストがかかり、容易な測定とはいえませんでした。しかし、今後は製品の高速化、小型化、操作感の向上などに対応するために、部品、製品のトルク特性の把握が重要になると思われ、当グループにおいてもトルク測定関連設備の充実を図っていきます。
 

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