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日本計量新報 2007年7月1日 (2681号)

計量管理ができていない企業には品質も信用もビジネスの成功もない

品質工学が実現しているさまざまな工学理論のなかには、計量管理協会などがかつて研究に取り組んできた管理手法と同じものが多く含まれている。だから品質工学という言葉を聞いて尻込みしてしまう人は、品質工学とは計量管理の理論と重なっていると思って敷居を低くして素直にこの方面の成果に学んでその技法や理論を応用することである。
 計量管理活動は計量法の制定当時の昭和20年代後半から40年代初期にかけて現在の品質工学会以上の大きな活動の盛り上がりをみせていた。計量管理は品質管理と重ね合わせて考えられ、計量法の規定に基づく現在の適正計量管理事業所(計量管理事業所)の指定と平行して、製造、流通など産業の各部門で品質管理とワンセットでの計量管理が促進され、壊れない、安い、便利という高品質の日本製品となって、大きな成果を収めた。製造業、消費財の流通業その他さまざまな事業分野の大手企業が計量法の計量管理事業諸制度の指定を受けて、財界の大物が計量管理協会の会長職にあった。
 壊れない、安い、便利という高品質の日本製品は計量管理の結果としてあるものだが、計量管理という認識よりも品質管理という言葉が普及し、この品質管理によって日本の物づくりができあがったということになってしまった。こうした状況は計量管理の普及推進をする計量管理協会に加入する企業を激減させ、また現在の適正計量管理事業所の指定の促進も停滞し、ダイエーなど大手スーパーがコストという意識から指定を返上してしまうという事態も発生している。適正計量管理事業所制度における事業者メリットとしてハカリの定期検査の「免除」があげられているが、ダイエーは「免除」のために費やす費用よりも、行政による検査の方が安いと考えて指定を返上したという経緯があるから、この制度にはコスト面から考えると指定のメリットはないといってよい。
 ある大手スーパーが苦戦したのは顧客者要求を満足させる品質の商品やサービスが提供できなくなったからだと判断されるが、事実そのお店に足を運んでも買いたい品質のものはなかった。スーパーとデパートでは商品やサービスがことなり、デパートは高品質の商品を販売することで成り立ってきた。あるスーパーは品質などの意識を捨ててコスト・コスト・コストで買いたくもない品質の商品を並べていたのだから、いま伸び盛りのスーパーとその内容を比較しても経営がおかしくなるのは必然である。適正計量管理事業所制度は企業の品質管理などと連動させて全体を管理する中で位置づけられるものであり、これが大企業であればハカリの定期検査を行政の検査に頼ることがあってはならない。もしもそのようなことをするような体質の企業は、品質そのものの管理ができない、あるいは品質を管理するだけの考えを持ち合わせていない企業であると考えていい。
 品質工学と品質管理と計量管理と三つの言葉を並べるとさまざまな感慨がよぎるのが計量管理に従事してきた人々に共通することである。品質工学は歴史的・技術的には品質管理や計量管理の延長線上に実現したものであることは間違いないが、徹底的に管理してやろう、徹底的に計ってやろうという、一種の精神主義や、そのための人の管理ということへのアンチテーゼとしての意味を持って誕生したという一面ももっている。品質管理とはQCサークル運動に見られるように、品質という言葉を用いた人の管理であったことは否定できない。従業員を企業に強制的かつ強圧的に従属させるのが品質管理運動であった。精神主義の品質管理へのアンチテーゼとも思える挑戦的な言葉で品質管理を定義した、「品質工学は、無駄な仕事を早くやめるためには何をすればよいかを教えてくれる」と説く論がある。この論に従って考えると「品質工学は、あなたの技術力の有無を教えてくれる」ことになる。現在、計量管理あるいは品質管理という名称の組織に属する人々には技術が備わっているかというとかなりの程度怪しくなる。その言葉は品質保証部という組織分野にも及ぶ。
 現在の計量管理が実態として、計量法の適正計量管理事業所制度ならびに計量士制度と一体となっていること自体はそれでよいとしても、指定を受けている事業者以外でも、計量管理手法を活用することですべての事業所に大きな便益をもたらす術(すべ)を設計した多くのマニュアルを作成して、計量管理の体系を技術的・学問的にも確立する必要がある。便益をつくりだす任を当該事業所の担当者任せにすることでは計量管理制度としての適正計量管理事業所制度を大きく発展させることは難しい。これを成し遂げるには品質工学の考え方を学ぶことである。品質工学の理論と技法を計量管理の理論と管理技術に融合させることによって、計量管理理論はどのような事業所にも不偏の管理技術になりうるのである。品質保証の国際規格を日本企業がこぞって取り入れ認証を受けているのは管理手法が有効だと考えたからである。同時にこの認証取得が企業の信用を獲得することになるからでもある。費用の持ち出しこそあれ、そこには法的メリットなど一切ないにもかかわらずである。計量管理は品質管理であり品質工学であり、品質保証とも結びついているから、計量管理が生み出すメリットは総合的なものであり、メリットの一つの形態は企業の信用増大であり、このことを通じてビジネスの成功をもたらす。計量管理ができていない企業には品質も信用もビジネスの成功もない。


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