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日本計量新報 2009年9月27日 (2791号)

常用漢字表見直し、「銑、錘、勺、匁、脹」への愛惜

日本語の一般的表記のうち「法令・公用文書・新聞・雑誌・放送等、一般の社会生活で用いる場合の、効率的で共通性の高い漢字を収め、分かりやすく通じやすい文章を書き表すための漢字使用の目安」(内閣告示)として、総数1945字の常用漢字が規定されている。
 現在、その常用漢字を見直し、「新常用漢字表(仮称)」を制定する作業が、文化庁の文化審議会国語分科会漢字小委員会で進められている。
 従来の常用漢字表から、191字増の2131字(音読み2352、訓読み2033)が増やされることが、2009年1月16日に文化審議会国語分科会漢字小委員会から公表され、同月29日に文化審議会総会で承認された。同年3月に文化庁のホームページなどで公開し、一般の意見を募っており、漢字小委員会は09年5月、6月、7月に募集で寄せられた意見の検討をしている。10月中にも「新常用漢字表(仮称)に関する第2試案」がまとめられる。第42回国語分科会には、同試案が上程されることになる。2010年2月に文化審議会が文部科学相に「新常用漢字表(仮称)に関する試案」を答申、同年秋に内閣による名称決定を経て、新漢字表として告示される。
 学校教育の場面では、教育漢字または学習漢字と呼ばれる、小学校6年間のうちに学習する1006字の漢字が文部科学省によって定められている。これは『小学校学習指導要領』の付録、『学年別漢字配当表』によって、小学校で学年別に学習する漢字が定められている。新常用漢字に盛り込まれた漢字と教育漢字は、ある程度連動するものの、新常用漢字のすべてが小学生の学習対象になるわけではない。
 科学技術と計量に関連する銑(せん)、錘(すい)、勺(しゃく)、匁(もんめ)、脹(ちょう)の字種5字が減らされる試案をもとに、一般の意見を考慮しながら審議を進めているところであるが、削除対象が計量に関係する単位や科学技術の重要用語であることが特徴である。5字削減案の前には、斤(きん)の文字も案にのぼっていたが、08年中頃の審議の過程で、これは削除対象から除外された。
 削除方針を決める主な目安になるのは、どのような方法かで調べた使用頻度であり、削除対象となった銑(せん)、錘(すい)、勺(しゃく)、匁(もんめ)、脹(ちょう)の5字は、使用頻度の下位に位置していた。技術用語、科学用語などは一般の会話、著述に登場する割合は低くなるのは当たり前のことである。将来の科学技術振興と人材育成の面から理科離れを問題にする国の教育施策と対比するときに、使用頻度が低いからといって科学技術上のあるいは重要な計量単位を常用漢字から削除するという行動は正当ではない。内閣法制局からは、法律用語6字を加えるべきとの意見書が出されている。
 アルファベットを使う言語はタイプライターを使うと便利に綴(つづ)ることができる。これに比べ、漢字と平仮名と片仮名の混交文字である日本語は、タイプライターで文字を綴るという視点からは不都合であった。こうしたことが動機付けとなって、漢字制限の考えが登場し、推進されてきた。
 ワープロの登場とパソコンの機能向上で、日本語の漢字表記における不都合が消し飛んでしまったことは予測を超えることである。何でもかんでも漢字に変換してしまう一方で、その漢字を読めないという新しい問題が登場しているが、漢字には読み方をルビその他の方法で添えればいいことである。
 日本語は、従来から使われている言葉を捨てて新しい言葉を生み出すという特質をもっている。ついこの前の明治時代の言葉が記された文章を読むと、知らない言葉で物事を語っていることに気づく。大正時代の言葉だってそうであるし、松本清張や新田次郎の小説で語られている言葉やそのリズムが、現代の人にすんなりと受け入れがたいのも事実である。平安時代の言葉なども分からない言葉であるし、万葉集なども言葉のひとつひとつに解説を添えないと意味を解することができない。弥生時代の人や縄文時代の人と現代の人が対面して言葉を交わしたら、ほとんど会話にはならないだろう。
 このように、言葉は変わるのであるが銑(せん)、錘(すい)、勺(しゃく)、匁(もんめ)、脹(ちょう)の字種5字が常用漢字が新常用漢字に移行するときに除外されることには、愛惜のみならず怒りや憎しみに似た感情がわきたつ。

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