モノの見え方は人の知識と感性によって決まる。 地方公務員の一般職の知識によって見える計量行政の世界、あるいは計量の世界はどのようなものであろうか。「浅学非才」な職員は「計量行政という世界があることを初めて知りました」と臆面もなく、率直に語る。行政職員が知らない計量行政である。 一般職の職員が計量行政の重職に就いたときの対応は、おおよそ3つである。適正な計量の実施の確保のためにはハカリの定期検査の完全実施に努め、商品量目の適正化のために事業所に立ち入るなど、計量行政の所管業務に励む人。計量行政の神髄を理解しないまま、腰掛けで2年ほどの任期で余所に移動するか退職する人。計量行政などあまり世の中の役に立たないと思うため、この組織への縮小の働きかけがあると、何らの抵抗もなくそれに応じる人の3つである。 計量行政の職場に、確固たる目的、そしてそれを実行するための自由と民主主義と団結が欠ける状況にあると、際限なく組織は縮小する。組織の縮小の方策に道を開くことが重職者の手柄になることさえある。地方公共団体の幹部職員の課題は住民福祉の増進であるけれども、行政費用の不足に対応するために行政組織を破壊していくことを目的にしている状況があり、計量行政は、新任所長のこの行政への理解の不足という状況に見合う形で、地方公共団体での組織的割合を減じている。地方公共団体における計量行政の理念と実際の在り方の組織論が確立されなければならない。 計量技術を商売にする人や企業があり、その延長に計量器を商売にする企業がある。計ればモノが上手く造れる、計れば人の健康を増進することができる、商品を買う人と売る人に公平であるように計っているから平和に取引ができる、計ったから見えないモノまでよく見えるようになった……など、計ることへの欲求や需要を満足させることで生きている。上手に計る計量器を造って、10人もの手間を省くことができれば、8人分の人の手間賃に相当する値段で売ることができる。生活習慣病を抑制する、よく練られた計量器を開発すれば、医療費と差し引き分の何割かの値段でその計量器を売ることができる。 何が地球環境を支配しているか解き明かすことは、難しいことではある。エネルギーを安全で効率的に取り出すことができる装置や仕組み、社会体制の確立が人類の課題である。樹木や海洋光合成細菌は、二酸化炭素(炭酸ガス)を分解する。計量技術と計量器によって、排出される炭酸ガスを直接にやっつけることはできないが、低燃費エンジン、高性能ハイブリットエンジン、水素エンジンの開発に貢献することはできる。 知っているつもりでも人は多くを知らない。「知っていることよりも知らないことが多い」ということを知ることが大事だ。いま持っている知識のほかに、知れば驚くほどの知識が世の中にはある。自分のつたない知識によって見えている世界を、もっと大きな知識で見える世界を獲得するようにすることで新しい世界が見えてくる。計量の理論などその知識を全部集めて新しい計量器を造ってみようという超張り切りの心情になってみてはどうだろう。
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