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日本計量新報 2010年3月14日 (2813号)

新しい数学理論は計測工学と計測機器を発展させる要素だ

ある事象が起こりうる確率を、多くの人々は「可能性」と称して、99%とか、100%とか、120%という数字で表現する。
 割合とか比率としてのパーセンテージを算出する計算式は、(比べる数値÷もとにする全体の数値)×100である。代入する数値によって120%や200%もあり得る。
 しかし、ある事象が起こりうる確率として、120%と表現することは間違いである。「比率」は100%を超えうるが、「確率」は100%を決して超えることはない。現代人は、比喩的に「120%の確率で」などと言いがちだが、比率と確率を混同しないよう、注意しなくてはならない。
 幸いにというべきか、日本語には「十中八九」や、「九分九厘」という言葉があり、これらは「ほとんど」「おおかた」という意味を表している。「十中十」などとは言わないのは、確率が100%を超えることがないと、理解されていればこそである。

 数学には確率論という分野がある。ある現象の次の状態を考える時、部分的には前の状態から決定されるが、完全に前の状態には依存していない。確率的な予言しかできない偶然現象に対して数学的なモデルを与え、解析するのが確率論である。
 その起源は、16世紀末から17世紀にかけてカルダノ、パスカル、フェルマー、ホイヘンスらによって端緒が開かれたとされている。
 確率論の発展過程は興味深く、もともとはサイコロ賭博といったギャンブルの研究として始まったが、今では数学の一分野として地位を確立し、保険や投資などの分野で実用されている。
 現代数学の確率論は、アンドレイ・コルモゴロフの「確率論の基礎概念」(1933年)に始まる公理主義的確率論である。
 他の現代数学と同様に、この確率論では「確率」が何を意味するかは追求せず、「確率」が満たすべき性質をいくつか規定し、その性質から導くことのできる定理を突き詰めていく。
 この確率論の基礎には、集合論・測度論・ルベーグ積分がある。確率論は、解析学の一分野として現在では分類されている。とくにルベーグ積分論や関数解析学とは密接につながる。離散数学との関係が深いが、離散的な場合であってもその内容は解析的であることが多い。また、確率論は統計学を記述する際、重要な言語や道具として使われている。
 様々な学問や理論が互いに関連しあって新しい数学理論となり、その理論がまた別の学問の基礎となっていくのだ。

 計量計測の世界で大きな役割を果たしている品質工学(Quality Engineering)の場合は、田口玄一氏があるきっかけで統計学を体得し、その統計学を利用した品質管理手法を確立して、その後にQuality Engineering(クオリティー・エンジニアリング)の名称を用いて、品質工学への道を拓いた。
 田口氏は品質工学の本質的な考え方として「社会的損失の最小化」「個人の自由の和の拡大」など、頭脳労働の生産性の改革を狙い、このことを「技術戦略」ととらえた。モノ造りは企業側の理屈ではなく、顧客側の理屈で考えて企業の利益と顧客側の損失とがバランスするような経営をすること説いて、企業に受け入れられた。
 田口氏は以下のような考えを述べている。 
 品質工学の目的は社会的な生産性を上げること。しかも頭脳労働の生産性が大切だということだ。企業でもR&D(企業の研究・開発業務)で新産業を作る研究をすれば、失業者は吸収できるし、開発段階で機能性の評価をやって無駄な労働時間を短縮すれば、2日の休みを3日か4日にすることだってできる。その休みを旅行やスポーツなどの趣味やレジャーに使えば国全体が潤うことになる。
 これは、氏が米国に渡って米国企業に勤め、米国で生活したことと無縁ではない。数学、とくに統計学の産業活動への応用が品質工学として形作られた。

 このようにして品質工学ができあがったのと同じことが、計測理論や計測機器にも起きている。それが総合的で形式的な学問や工学理論として仕立てられていないだけである。
 質量や力学や見かけの温度や長さが脈動している計測対象物の量を、統計学的に処理して数値を確定する方法が一般的に行われるようになった。
 ベルトの上を移動しているモノの質量を計ること、高速道路上に設けられたハカリ装置の上を走行している自動車の質量を計ることができるのは、数学の力に負うものであり、コンピュータの助けがあってのことだ。数学とコンピュータの相性はいい。
 新しい数学理論に大きな注意を払い、その力を計測に用いることによって、新しい計測理論や計測機器の開発が可能になる。

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