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日本計量新報 2011年1月23日 (2854号)

正しく知ることは何事にも勝る

思想家の鶴見俊輔が、1931年の満州事変から1945年ポツダム宣言受諾によるアジア・太平洋戦争の終結に至るまでの足掛け15年にわたる日本の紛争状態と戦争を「15年戦争」と呼んだように、この期間、日本は途切れることなく対外膨張戦略を推し進めた。
 1937年から始まった日中戦争では、前線から病院に送り返された多くの傷病兵が、直後に命を落とした。戦病死として取り扱われたが、実際には栄養失調による餓死であることを軍医が報告書にまとめている。日本軍は、中国戦線と南方戦線に同時に長期間にわたり兵を送り込んだが、戦闘に耐えうる物資を持っていなかった。南洋の島々の前線では食糧の供給がなく、敗走した日本兵の一部は倫理観を振り捨てて、食べられる物は何でも食べた。

軍隊の戦闘力を維持し、作戦を支援するために、戦闘部隊の後方にあって、人員・兵器・食料などの整備・補給・修理などにあたり、また、後方連絡線の確保などにあたる機能・機関を兵站(へいたん)という。兵站を確保せずに無謀な戦線の拡大をした段階で、米中英の側から勝ちは見えていた。銃弾を持たない歩兵、飛行機のない航空基地と飛行兵といった状態が続き、追いつめらた結果、バンザイ攻撃や一機一艦の撃沈を目指しての特攻を行った。

 計量計測技術と計量制度は、総合して社会基盤の一部であり、言わばそれは前線にとっての兵站と同じ役割を果たす。地方公共団体が受け持つ計量器の検定、ハカリの検定と定期検査その他の計量行政は、国民の商取引の安全を確保することに限らずに、経済や産業や科学や生活や文化の礎になる。にもかかわらず、計量計測は、「縁の下の力持ち」であるがゆえに、ないがしろにされることがある。

計量行政への意識が欠落した地方公共団体は、計量法に定められた計量行政の多くを実施しない。怠慢が進行すると、一時は支障がないように見えても、やがて醜い社会へ移行することになる。15年戦争での兵站・基盤の欠落が、無謀な戦争遂行と無残な敗戦という結末をもたらしたことを想起させる。
 このような事態を防ぐにはどうしたらよいのか。人は知ることによって物事を強く意識する。NHKの番組「ためしてガッテン」の実験では、体重を測ることによって体重の増減に自覚的になり、ダイエットにつながることを確かめている。同様に血糖値も、簡便な測定器で血糖を測定するだけで、やがては血糖値が下がることを例示し、併せて血糖値を下げるためには体重を適正値にすることが効果的であると紹介した。
 計量行政の現状をみると、地方公共団体の長に計量行政の実施の義務が伝えられていない場合がある。一部の職員の判断で、計量検定所の必置規制撤廃が、計量法で定められた計量行政の不履行を容認するものと捉えられ、計量行政を放棄したようなふるまいをする地方公共団体がある。団体の長はもちろん、住民一人一人が計量に関して正しく知り、意識することが、計量行政の確実な実施に重要な意味をもつ。

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