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日本計量新報 2012年10月7日 (2936号)

取引証明のための計量器の正確さを計るのが定期検査

「温故知新」という言葉がある。古いこと、あるいはその経緯やそれ相応の知識がなくては新しいことに分け入ることはできない。アインシュタインの相対性理論の偉業もそれまでの物理学の知識がなくてはできなかった。そうかといって大学などで古い過去の知識を大量に教え込めば新しい物事を導き出せるということでもない。過去の知識の修得は前提であり、ある程度までの条件ではあってもそれだけで十分ということにならないのが、教育のジレンマである。品質工学の基礎を築いた田口玄一氏は米国の大学工学部の教育界に接してそのことに啓発されていた。
 本当に新しいものを開発しようとするには、既存の技術をいくら教えても駄目であり、新しいものを創造するために必要なことは、コンピュータを使った設計研究の効率化と、設計したものの機能性を効率よく評価することである、というのが米国の工学部教育界の考え方である。田口玄一氏は、「田口メソッド」は研究開発時に市場での機能性の予測評価をする道具であると説いている。そうした道具抜きでは、どのような研究も改善も上手く評価できないとし、「私がやってきたことは個々の技術ではなく、いろいろなアイデアに対する評価をいかに行うかである」と述べている。
 田口玄一氏は『田口メソッドわが発想法』(経済界)のなかで次のように述べている。「評価は非常に重要なことであり、科学技術の発展の七割は測定技術の開発によって支えられてきた。例えば、電波の測定なしには電波技術の発展はあり得なかった。また電波を幾ら測定しても発展はないが、測定技術がなければ新しいアイデアが正しいものかどうかを判断することができない。情報科学の発展を支えてきたのは、評価技術の発展なのである。機能を費用化することは、実は機能性を総合的に測定することなのである。その意味で、私は測定が非常に重要だという考えを持っている」「技術は製品が市場で問題を起こさないかどうかを、設計時あるいは生産に入る前の結果が生じていない段階で、予測(評価)しなければならない。今までの研究の仕方では、その評価が不十分だった」「人間は進んで努力するが、機械は自発的には努力してくれない。自発的に努力しない機械の性能をいかに予測するかが、大きな課題なのだ。予測と実際の値の差が誤差になる。予測通りに行くかどうかを評価することは更に困難なわけだが、その誤差を予測するのが直行表による利得の再現性のチェックなのである」「予測の正確さにもっと力を入れるべきだというのが私の考えのベースである」
 測定、計測、計量とは平たくいえば計ることである。取引証明のための計量器の正確さを計るのが、ハカリの定期検査である。ハカリがいい加減であればそのハカリを使った測定もいい加減であることになり、社会の商取引の安定に悪い影響を及ぼす。信用失墜の計量は経済の動きを鈍らせる。計量には目的によってさまざまな性質があり、役割がある。その目的、性質、役割を考えて並べて、計量の達人になるように務めるのが田口玄一氏に啓発された人々である。

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