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日本計量新報 2013年9月1日 (2978号)

電気をつくるためのフェイルセイフは原子炉を使わないことだ

人は言葉によって喜ばされ、言葉によって怒らされる。そして明瞭な言葉によって騙される。言葉とは便利なものであり、いくつも調子よい言葉を並べられると人はコロリとやられる。気にくわない言葉の裏にもっと醜い偽りが重なると、言葉を真に受ける純情・無垢な人は怒り心頭に発する。このようなようすは巷にあふれているが、言葉は奥ゆかしく使うにこしたことはない。
 原子力安全委員会の委員長だった斑目春樹氏は、地震学者の石橋克彦氏が原発災害の危惧を1997年10月号の『科学』に掲載したのに対して、静岡県議会の委員会資料「石橋論文に関する静岡県原子力対策アドバイザーの見解」に、「(外部電源が止まり、ディーゼル発電機が動かず、バッテリーも機能しなくなる可能性について)原発は二重三重の安全対策がなされており、安全にかつ問題なく停止させることができる」と書いている。このほか指摘のあった核分裂反応を止めても炉心の温度上昇は続く、炉心冷却の再樹循環設備の故障の危惧に対しても、すべて大丈夫としていた。このアドバイザーに名を連ねていた小佐古敏莊氏も「国内の原発は防護対策がなされているので、多量な放射能の放出は全く起こり得ない」と書いている。
 福島第一原子力発電所事故でおきたことは地震学者の石橋克彦氏が指摘したそのままのことであり、これを否定した斑目春樹氏、小佐古敏莊氏見解はデタラメであった。斑目春樹氏、小佐古敏莊氏は東大の教員である。日本の原子力発電は二重三重の安全対策がされ、防護対策がなされているので、多量な放射能の放出は全く起こり得ない」と明記したのが原子力発電の「権威」である。事実はこれら権威とされる人々とは別の指摘の通りになった。原子力発電は安全対策をしているから安全であるというその安全対策が拙劣であり、配管と配線が大量にめぐらされている設備は、地震で壊れ、つぎに押しよせた津波でさらに破壊された。ここには多重構造の補償設備はなかったのである。
 システム故障に際し代替の装置を設けて対応することをフェイルセイフという。このフェイルセイフは、やさしく言うと「間違っても大過なし」の考えによって、補償の仕組みをつくることである。1000年あるいは2000年の時間の経過の間には何度かあった20mを超える大津波への知見と配慮はなかった。この知見は実際にはある技術者が関係の委員会で指摘していた。同じように石橋克彦氏も地震学の立場に立って明確に指摘した。補助電源施設が津波のこない場所にあったとしても福島第一原子力発電所の事故は防げなかったかもしれない。その前に炉心冷却のための設備が壊れてしまっていたのだから。
 この分野にフェイルセイフの思想に立ったシステムを築くことができるであろうか。電力需要に水力発電所と火力発電所で対応できている現状と、水力発電設備の増設、火力発電所の増設などの対応をするときに、核燃料を燃やすことで放射能を生み出しつづける原子炉を用いた原子力発電は、本質的に安全ではない。電気をつくることを目的にしたフェイルセイフとは原子力発電をしないことである。
(福島第一原発の事故と原発の現状を考える 連載その3)

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