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日本計量新報 2014年1月26日 (2996号)

正確さが連結しない計測は意味を失う

1959(昭和34)年9月10日に焦点距離50mm・F0・95の5群7枚の変形ガウス型レンズを付けた「キヤノン7」という距離計連動式のカメラが発売された。このカメラを雑誌アサヒカメラ62(昭和37)年1月号でテストした特集があって、そこではレンズの明るさが0・95という表示とは違い、実際には0・99であることが明らかにされ、常識的にはF1とすべきだと指摘された。レンズの焦点距離は51・8mmの実測値であった。カタログに表記されている値はJIS規格にはいっている。同時代のミノルタの一眼レフ用の標準レンズは実測値60mmなのに58mmとして表記されていた。日本輸出検査協会やJIS規格にはプラスマイナス5%の許容誤差となっていたので、焦点距離58mmと書いても問題にならなかった。
 時代が下ってライカ社も一眼レフカメラを発売するようになった。その第1号機の片眼をつぶったウインクライカこと「ライカフレックス」のテストをしたアサヒカメラ誌、65(昭和40)年10月号の「大きくて重い」という指摘に、エルンスト・ライツ社はドイツ本国から次のような回答をよせた。「カメラが大きくまたかなり重いということが撮影中に手ぶれをしないように有利に働いている。レンズの性能を十分に使い尽くし、かつカメラの機械的および光学的特性の総合結果である鮮明な写真を得させることに寄与している」というのだ。これは嘘ではないが負け惜しみといってよい。今ではレンズかボディーかに震えを除去するしくみで対応している。
 エルンスト・ライツ社は一眼レフカメラの3号機の「ライカフレックスSL2」をテストした75(昭和50)年1月号のアサヒカメラが「シャッター速度の最高速が2000分の1秒という表記に対して、実測値が1333分の1秒であった」という指摘に次のように答えた。「露出時間の許容誤差を私どもは最大プラス、マイナス30%としており、テストにおけるような誤差が出たことを解明するため、どのような計測法がとられたか、知りたい」と。同誌はこの時期のカメラについて「2000分の1秒をもつカメラのニコンF2、キャノンF1も最高速が不調であった。コシナのハイライトECはよかった。ミノルタのX1がまずまずだった」という結果を発表している。2000分の1秒のシャッター速度を実現することへのカメラメーカーの挑戦の時代であったのだろう。
 商品の性能を説明するカタログなどに記載されている内容は一皮剥くとこのようなことである。上記のカメラが売られていたころのカメラの値段は普通の人の年収の半分か3分の1ほど、あるいは年収ほどもしていたのだから、その性能表記にJISなどでプラスマイナス5%ほどの許容差が認められていたのではJISが詐欺の手伝いをしていたようなものである。標準レンズの焦点距離が、50mmであるのと55mmといでは会議室の風景を撮影するのに大きな違いがあることを知っている人は多いことであろう。
 上記の事例を参考にして、計測業務に用いているさまざまな計測器の実際の計測性能はどの程度であるかを確かめることは大事である。カタログに記載されている性能がそのまま実現されているのかどうか、不明であることが多い。よく確かめられた分銅やブロックゲージを用いてハカリやマイクロメータを校正していれば大きな間違いはおきないが、こうしたことが手軽にできない計測器の性能を確かめる方法を職場ごと、計測場面ごとに考案しておきたい。正確さが連結しない計測は意味を失うことになるからである。計測機器とそれを使っての測定を評価できる知見と技能を身につけたい。

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