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日本計量新報 2014年6月22日 (3014号)

質量、重さ・重量、重力加速度そして力を考える

地球から宇宙に飛び出すというのはどういうことか。宇宙飛行士たちが経験していることなのだが、地球の重力加速度の8倍ほどの力が1分をこえて人体や物体にかかる。普通の人が通常を超えた重力加速度にさらされたらどうなるか。
 2倍の力が加わったらどうか。腕を動かそうとしても鉛であるかのように重たい。足はさらに重く磁石で鉄板にくっつけられているかのごとくである。2倍くらいでは人にやにやしていられる。2.5倍では笑いが引っ込む。2.7倍では頬骨あたりの肉が下がりだす。3.5倍では頬と口あたりの肉が押し下げられる。4倍では顔がゆがみ、そのゆがみを自分ではどうすることもできない。
 これは作家の北杜夫氏が立川の航空医学実験隊で経験したことである。ジェット戦闘機が急降下して機体を引き起こすときには5倍の力が数秒かかる。8倍の力を想像できるか。
 体重70kgの人が2倍の重力加速度では140kgの状態になる。3倍では210kg。4倍では280kg。5倍では350kg。6倍では420kg。7倍では490kg。8倍では560kg。
 横綱の日馬富士は横綱に昇進したときに体重が小さくても動き早くぶつかれば力は大きくなる、とNHKテレビでインタビューに答えていた。体重がm、加速度がα、力がF、とすると、F=mαの式が日馬富士の理論に対応する。だから日馬富士は加速度を増すことを心がけて相撲を取ると言っているのだ。ロケットと地球の重力、そしてロケットの加速度が人体に変化を及ぼすことをすでに述べた。その重力加速度の単位にはメートル毎秒毎秒(m/s2)である。mは距離(長さ)であり、sは時間。
 質量と力と重力加速度という言葉がでてきた。その説明をする。力は体で体感できる量である。加速度は視覚を通じ、体で体感できる量である。質量は体では全く体感できない、ある物がもつ内容であり、別の言い方をすると質量は物質(物体)固有の量で、環境(温度や圧力)によって変化しない。
 重力加速度は加速度の単位としても用いられる。この場合は大文字でGと書かれ「ジー」と読む。重力加速度と同じ加速度を 1.0Gのように表現する。G(ジー)はSI単位には含まれず、日本の計量法では商取引などでの使用が認められていない。1.0G= 9.80665m/s2。地球を飛び立つロケットのなかで人体はどのようになるか、ということで北杜夫氏の経験は、2倍は2Gであり、以下それに続く。航空の世界ではこのGの単位を用いている。
 質量、力に関係しては、これを混同する事例は多い。現在の計量法になるときに力の単位N(ニュートン)が登場したときに朝日新聞掲載の4コマ漫画は小錦の体重が262キログラム(kg)から256.8Nになる、と表現したが、体重はキログラム(kg)で表記することになっているので、漫画がそのままに漫画的なことをしてしまった。
 質量の定義的な説明はすでにした。その質量と重さあるいは重量は多くの場合混同されている。質量は重力加速度の影響を除去したものとして表現される。均等目盛りが800以下のバネ方式のハカリでは重力加速度の影響が実際上はその目盛りの表示に紛れ込まない。
 教育書では、小学校は、重さを質量の単位gで記述し、中学校では、重さを力の単位Nで記述している、ということがあり、これが質量と、重さ・重量、力を混同させてしまう要因になる。

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