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日本計量新報 2014年11月9日 (3033号)

よく知り、よく考えることによって、良い行動ができる

安倍晋三氏による第一次安倍内閣が発足したときに、北朝鮮が発射した核弾頭ミサイルを日本に向けて撃ちこれが太平洋の三陸沖に届いた。核は積んでいなかったが日本の防衛網はこのことを全く探知できなかった。安倍首相がそのときに驚きのようすを見せなかったのは、戦争とそれにまつわる日本の安全を根本のところで気持ちに留めていなかったからと思われる。そのころには「美しい国日本」のことを説いていた。
 小泉純一郎氏が首相になった直後の2001年5月1日に、北朝鮮の故金正日総書記の長男の金正男氏が偽造パスポートを使って違法入国をはかり、成田空港入国管理局が拘束したにもかかわらず小泉首相はそのまま帰してしまった。当時の外務大臣は田中真紀子氏で政務担当の内閣官房副長官は安倍晋三氏であった。
 北朝鮮による日本人連れ去りが判明しているときであり、金正男氏の身柄の拘束は拉致事件の解決のために有効であったが、何ら手を打たなかった。その後は小泉首相は拉致問題に力を入れ、安倍晋三氏はこの担当をしている。
 あらかじめ分かっていること、知っていることに対しては日本の首相と日本の行政組織はあれこれと何事かなす姿勢をみせるものの、知らないこと、突然に起こる事態に対しては無能に近い。かしましく叫ぶ日本の国の防衛のこと、そして拉致問題のことも、知識がない間は問題として存在しないのに等しかった。
 いまの日本の人の暮らしの平和にかかわり将来を不安にする医療費の増大、国の財政の見通しの立たない債務解消という問題がある。働く人が少なくなり、子供があまり生まれず、人口がどんどん減少する「少子高齢化」と人口減少は間違いなく進行する。人口減少と子供があまり生まれないことが社会の問題として出されてきたのはつい最近のことである。医療費の増大、国の債務の増大もこれまで隠されてきた。維持できない現行の年金制度のことも同じことである。役所が隠してきて学者もまともに声をあげず、瀬戸際になってこのことを表に出してきた。消費税増税のための理屈付けのために関係の役所が政治家にこのことを明かして狂乱させ、マスコミに焚きつけたのだ。
 計量計測の世界でも知らないことによってさまざまなことが起こる。工場などの現場でふつうに使われているノギスやマイクロメータの取り扱いに起因する誤った計測があり、ハカリの使い方は簡単そうでいてそうではない。ゼロ点の調整、重力加速度の違いを知らずに使っている事例、誤表示であるにもかかわらずデジタルの数字で表示される数値をそのまま読みとって疑わないこと、求められる精密さに対応しない粗い計量や、いらない精密さを求めて手間暇と機材コストを掛けすぎていることなど、列挙すると数え切れない。
 日本の社会における現行の計量のしくみとしての計量制度とその基礎となる計量法の状態についても上記のことと連動して考えてみることは大事だ。ハカリの定期検査の脱検査率は5割という現場を知る計量士の危惧を否定する行政からの検査報告はでていない。ハカリの定期検査などの計量行政事務は、かつての国からの機関委任事務が地方公共団体が責任の主体となる自治事務に変えられてからは、地方公共団体の計量行政をおこなう事務組織は急激に組織人員の規模が縮小し、計量行政にかかわる知識をまともに持ち得ない状況が出現している。
 地方公共団体の計量行政のサボタージュ(任務放棄)に近い現状をあちこちで見ている。そのこととかかわって国の計量行政機関のあり方はどうあるべきなのか、日本国における計量行政が問われている。大事なことを知らせない、知ることができない、そのために何も知らないという状態が続いている。よく知り、よく考えることは必要な行動をするための条件である。よく知り、よく考えることの欠如がこの先も続かないことが大事だ。

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