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日本計量新報 2015年11月15日 (3081号)

計量法と計量行政が社会に果たす役割とその実施の責任

計量の単位を定めてこれを国の内外で共通して使うために標準の供給をすること。文化の向上に寄与するために、すなわち国民生活と経済の発展に資するために適正な計量の実施を確保すること。とりわけ取引と証明のための計量にかかわっては公正を実現することが計量法とその施行としての計量行政の役割である。
 計るための器具と機械と装置を計量器と計量法は規定する。計量器のうち取引と証明にかかり社会に及ぼす影響の大きな計量器を特別に指定してこれを特定計量器としていて、この特定計量器については直接に計量法と計量行政が関与して、検定や定期検査などが実施される。
 現在、特定計量器に指定されている計量器には、電気、ガス、水道などの料金徴収にかかる計量器、また商店などで使われるハカリ、また環境計測器あるいは公害計測器と呼ばれている機器などがある。
 これら特定計量器は大きな意味での計量器である「計るための器具と機械と装置」の全体の数量に対し、これらの特定計量器が占める割合は1%あるかないかであると推定される。検定のあと2年ごとに検査の義務があるハカリについてはどのように多く見積もっても計るための器具と機械と装置の総数に対して1%に満たない。
 世のなかにある計量器の1%程度の器物として特定計量器に直接関与して適正な計量の実施を確保しているのが現在の日本の計量法と計量行政である。特定計量器の検定はメーカーが規定を満たす管理体制を敷きこれが認められれば役所がおこなう検定と同じ効力をもつしくみができており、多くの特定計量器がこの制度のもとでの検定を実施して社会に供給されている。
 ハカリの定期検査の実施主体は都道府県である。都道府県は自らこれを実施することとあわせて事業者を指定して代行させることができる「指定定期検査機関」制度によってハカリの定期検査をおこなっている。都道府県がおこなう計量行政の実務の過半はハカリの定期検査の実施であるということができる。
 地方公共団体にとって、かつては計量行政は国からの委託される機関委任事務であり、この実施に要する費用の手当を受けて業務を推進してきた。前回の計量法の改正と連結して計量行政の大半が機関委任事務から自治事務に変わった直後からハカリの定期検査の実施率が下がっている。実施率の低下と連動するように都道府県などの地方公共団体では計量行政職員の減員と予算の削減をしている。当該の都道府県の計量協会あるいは検査事業者を指定してこれらにハカリの定期検査を実施させれば、この検査の実施率が下がることはないのであるが実態はそうではなく実施率の低下が続いている。
 さまざまな事情で県のなかには計量法と計量行政事務の知識が著しく不足しているところがある。専任の職員を要していない県が増えている。計量法と計量行政事務への知識が不足すると適正な計量の実施の確保のためにするハカリの定期検査への意識が低下する。
 ハカリの定期検査の実施のため当該ハカリがどこにどの程度あるのか台帳に記録されていて、この台帳に記載されたハカリの検査が実施されることになる。台帳記載のハカリが当該地域にある定期検査されるべきハカリの半数程度である場合には、定期検査の実施率はその範囲にとどまる。
 ハカリの定期検査対象器物はハカリに関する計量関係法令の規定のこともあってわかりやすいとはいえない。取引と証明に関係する規定とハカリの構造などに連動して判定する定期検査対象ハカリの特定は日ごろから定期検査業務に従事している計量士でもなかなかむずかしい内容がある。
 こうした内容を含む定期検査対象のハカリの所在場所の調査に地方公共団体が組織するシルバー人材センターに所属する人々が従事している事例がある。結果として取引証明に該当しないハカリが調査され台帳に記載されることがある。
 取引と証明にかかるハカリを明示することが大事であるが、こうした文書などが不整備であることは計量行政を実施する人々の怠慢の結果である。
 ごくわずかの事務量によって社会の基礎を支えている計量行政が、地方公共団体の知識のなさあるいは知らぬ振りをするという悪賢さによって投げやりにされ、崩壊ともいえる状況にあることは文化国家を自称する日本の恥である。知事、市長、議員などが選挙を有利にするために計量行政予算を削ることによって出現する口当たりのよい政策をしてきたことが計量行政のおぞましき後退につながっている。
 知事や市長など地方公共団体の長や議員に計量行政の役割を説明するなどの働きかけを旺盛にしているのが計量行政機関と計量協会などである。滋賀県などは知事と市長と議会に対して理解を求める説明ができているように思えるので、全国の関係機関と組織はこの事例に学ぶべきであろう。

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