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日本計量新報 2017年12月10日 (3175号)

神戸製鋼所と日産の「不正」から何を学ぶか

ある企業の幹部同士の話である。「これは無かったことにして知らんぷりをしましょうか」「そのような対応を繰り返していてはやがては事実が知れることになる」。結論は「ありのままでいこう」。中央官庁のキャリアが仕事の場以外で「ネグってしまいましょう」と平然と言った。この人は女性であったから役所の業務処理の方法が透けてみえる。

 神戸製鋼所と日産の「不正」のニュースをみて多くの人は怒った。何ということだと。水を差すようにある人が言った。「日産の車は今が買い時だ」。それができない。日産は生産中止したからだ。日産を買おうと言った人は日産の自動車は何も問題がないと考えている。完成車かその前段階でハンドルを切ってみるというテストに資格など要る筈がないからだ。そのような検査とそれをするための技術上の資格は形式だけのものだと見抜ける。日産とスバルは出荷した車の再検査をする。社会が大きな損失をすることに心痛まない人がいることに驚く。

 神戸製鋼のあとに東レの子会社や三菱マテリアル子会社の素材メーカーで製品検査データの改ざんが明らかになった。東レ子会社の東レハイブリッドコードと三菱マテリアル子会社の三菱電線では社長が代わった。多くの人は感覚的に不正を伝えられる企業の製品が騒がれるほどには酷いものでないことを知っている。製鉄所に勤めていた人に聞けば、製造ラインの仕組みから考えて不具合のある製品をつくりだすわけがないという。自分が勤務中は不正などしたことはないと胸を張った。

 考えられたプロセスによって確かめられた材料を使ってつくられた製品が安全や性能影響を及ぼすほどの不出来が生ずることはない。商慣習として企業間で過剰な品質の取り決めをするのが日本の現状である。100でよいのにそれに5を乗せていると考えればよい。この5は安全率であり、それは7にまで広げてもよい。

 1か2か3の安全率のなかに入る不出来について、「経産省が企業間の取り決めから逸脱したレベルの不正についても、積極的に社会に向けて公表するよう指導するようになったため、これまでは表沙汰にならなかった形式的な不正までがメディアに大きく取り上げられ、あたかも安全性に問題があるかのような不安を煽る形になっていることには問題がある」と指摘する人がいる。

 モーターショーが開かれているなか自動車工業会会長会社の日産に代わってインタビューに応じた副会長の豊田章男氏は、検査方法の取り決めと実際の差のことについてあっさりと触れていた。自動車の最終検査の取り決め方が自動車の安全と性能に影響していないことのニュアンスがここにはある。取り決め方を見直すべきなのだ。

 規則やその延長としての法令と実際の間にはずれが生じる。目的が自動車の性能ならびに安全にあるならば、それを実現する最適の方法に規則などを改めるのがよい。目的から離れてしまった規則や取り決めをもちだして「不正」などとされてしまったのが今回の騒動であるように思える。

 ただし日本の企業文化には次のようなことがある。完ぺきではないが十分ではある。しかし製品としての性能ならびに品質は満たしているが顧客との取り決めは満足していない。どうするか。この場合には一時的に出荷する。納期が遅れれば顧客は困る。数量を満たしていなければ同じように顧客は困る。性能を満たしているのだから出てきたデータを取り決め値の範囲にしてしまう。データを丸め込むといえば聞こえはよい。今回はこれが「改ざん」問題として騒がれた。物事には余裕が要るのだからもう少し緩やかにするのが賢明だ。

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