輸送中の交通事故減少へ
過積載・偏荷重を「はかって」防止
安心・安全輸送特集の第2回は、貨物輸送中の重大な事故につながる、過積載と偏荷重を取り上げる。過積載・偏荷重を防止するために有効なトラックスケールなどについても紹介する。
危険な過積載
トラックなどの貨物自動車に積載重量を超えて貨物を積んで走行することを「過積載」と呼ぶ。
過積載運行は、制動距離の伸長、ハンドルの操作性悪化など、重大事故誘発の原因になる。
また、路面に過大な荷重を加えるので、舗装や橋梁の傷みを早め、耐用年数を短縮させてしまう。
さらに、エンジンや車体に過大な負担をかけることから、騒音、振動、排気ガスを増大させ、沿道の環境悪化にもつながる。燃費も悪くなる。
厳しい行政処分
過積載運行には厳しい行政処分が課せられている。
過積載で運行した「運転者」は、初違反でも車両停止処分になり、再違反については車両停止期間の大幅延長、事業許可の取り消しなどの処分がある(道路交通法)。
また、過積載運行した「事業者」に対しては、過積載の程度と回数に応じて、自動車の使用停止を命じるなどの処分を科している(貨物自動車運送事業法)。
荷主にも責任
過積載を防止するためには、事業者のみならず、「荷主」に対しても啓発活動を積極的に推進する必要がある。
荷主が、過積載であることを知りながら、貨物自動車の運転者に積載物を売り渡したり、引き渡したりすることは、道路交通法で禁止されている。違反行為を反復する恐れがある場合は、その荷主に対して「警察署長の過積載再発防止命令」が発せられ、これに従わなかった場合は罰金が科せられる。
貨物自動車運送事業法でも、過積載運行を余儀なくさせた荷主に対して国土交通大臣が勧告できることになっている。
過積載は減少傾向に
法律による取り締まりや啓発活動などの結果、悪質な過積載運行は年々減少してきている。
とはいえ、過積載運行はなおゼロではない。2010年に過積載違反で取り締まりを受けたのは5954件。そのうち、積載重量を10%以上超過していたケースは1055件にのぼった。運輸業関係者は、日常的に過積載予防体制をとることが望ましい。
意識の改革と具体策が必要
過積載防止の決め手は、「絶対に過積載を許さない」という姿勢を社会全体で徹底することである。いかに罰則が強化されても、荷主や運行事業者の意識が変わらないことには過積載防止の成果をあげることは難しい。特に近年、不況などの影響からか「一度に積めるだけ積め」と指示する悪質な事業者も出ており、意識の改革と、具体的な対応策が求められる。
トラックスケールの活用を
運輸業関係者は過積載防止のため、はかりを購入して対応している。トラックスケールなどのはかりで計量し、積み荷の質量がオーバーしないようコントロールするのである。
積み荷の計り方
積載重量を計るには様々な方法がある。
(1)積む前に個々の積み荷の質量を計っておき、規定量におさめる方法、(2)積みながら質量(目方)を計る方法、(3)適当に積んでからオーバーしていないか計ってみる方法など。
はかりの各メーカーはこれらの方法に対応した各種はかりをラインアップしている。
また、はかりメーカーは、運輸関係業者に対して積極的に働きかけ、はかりと計量に関する知識を啓発していく必要がある。
偏荷重による横転事故を防ぐ
軸重と輪重
国土交通省の「道路運送車両の保安基準」で、軸重(1本の車軸にかかる重さ)は10トンを超えてはならず、輪荷重(一つの車輪にかかる重さ)は5トンを超えてはならないと定めている。
しかし、積載量や輪重・荷重が規定内であっても、荷物が左右のどちらかに偏っていれば、バランスが崩れ、横転事故などが起きやすくなる。
近年問題視されているのが、この「偏荷重」である。国土交通省の「貨物自動車運送事業の運行管理に関する基本的な考え方」(準則)にも、運行管理者は、偏荷重が生じないように積載しなければならない、という記載がある。
コンテナ横転
そもそもこれまでは、コンテナを自動車輸送する運転者が中身を知らされる仕組みがなく、運転者は、積み荷の危険度を正確に把握することができなかった。
法律案は先行き 不透明
こうした現状を踏まえ、自動車運送の安全を確保する「国際海陸一貫運送コンテナの自動車運送の安全確保に関する法律案」が閣議決定され、2010年3月5日に国会に提出された。
同法律案では、コンテナの品目・重量・荷付情報などを、荷主から運転者まで伝達すること、重さが不明な輸入コンテナは受荷主が重量を測定し、過積載や偏荷重など不適切なコンテナを是正することなどを義務付けており、このルールが徹底されれば、事故の要因は減少すると考えられていた。
ところが、2010年12月の臨時国会終了までにこの法律案の審議が行われることはなく、審査未了として廃案になった。(社)全日本トラック協会は要望書を提出し、廃案に遺憾の意を示したが、いまだ先行きは不透明である。
同法案に対しては(社)日本経済団体連合会(経団連)が、情報共有化と安全確保に合理的な因果関係が認められないこと、輸入コンテナを日本到着後に開封確認することは物流に混乱を招くことなどから効果を疑問視し、反対する意見書を公表していた。
経団連は、当面の安全対策強化案として、輸送事業者への教育や安全確認手順の確立、港湾など適切な場所に計測器を設置することなどを挙げている。
自主的な安全事故、偏荷重が一因?
国際海上貨物用コンテナ(海上コンテナ)が陸送中に横転する事故が、毎年発生している。
横転事故の原因としては、これまでカーブを曲がる際の速度超過などが考えられてきた。しかし調査の中で、「偏荷」や「荷崩れ」、「過積載」などがあった場合、熟練した運転者が制限速度で走っていても横転してしまう場合があるという実態が明らかになってきた。
確保
偏荷重に対する法的な規制がない現在、どのようにして安全を確保していけば良いのか。
そこで注目されている対策が、横浜と神戸で導入されている、車両偏荷重計量システムである。
港湾で活躍する
偏荷重測定機器
横浜で偏荷重測定機器を導入
横浜の港湾でコンテナ車両の重量測定を担う(社)横浜港湾貨物計量協会は、鎌長製衡(株)開発の「コンテナ車両偏荷重計量システム」を導入。全国に先駆けて、2009年5月から横浜の本牧計量所に偏荷重測定機器を設置した。
コンテナ内の偏荷重値を計量。軸ごとの軸重・輪重と左右のバランスを記載した偏荷重計量証明書を、コンテナ車両の運転者に発行する。
運転者は、証明書を元にコンテナ内の状況を把握し、偏荷重の度合いが大きく危険と判断した場合、積み直し等を荷主へ相談することが可能である。積み直しまでは不要の場合でも、積み荷の状況を把握することで、これまでより安全な運転ができる。
安全性確保に大きく貢献するこのシステムだが、全体重量計測時に一度の乗り込みで偏荷重なども計測できるため、時間的・金銭的に運転者や事業者の負担になることはない。測定にかかる時間は3分程度。協会は偏荷重測定の導入によって計量料金を上げることは考えておらず、安全輸送に貢献できることを目的としている。
導入当初は改良点もあったが、本番稼働しながら改良を重ね、精度を向上。2010年7月には、大黒埠頭計量所にも、偏荷重計量システムを導入した。
コンテナを船から積み下ろしするガントリークレーンにも、精度は粗いが重量を計れるタイプのものがある。「ガントリークレーンの精度をもっとあげて、積み下ろしの際に積載量や偏荷重を大まかに計っておく。その上で、(1)極端な偏荷重が確認された場合、受荷主の了解の下、ヤード内での積み替えを実施。(2)偏荷重の疑いが確認されたコンテナは、港単位で指定された偏荷重測定機器設置計量所で計量を実施。(3)問題のないコンテナがおそらく大半と思われるので、通常通り輸送実施。この取り組みで、よりスムーズな輸送体制の確立が可能だと思う」と、林博樹理事長は語る。また、今後の展望については、「国が過積載や偏荷重専用のスケールを各港湾に数カ所ずつ設置し、多くの人が低価格で利用できる仕組みを作っていくことが大切なのでは」と話した。
全国の港湾に偏荷重計量所を
(一社)日本海事検定協会も、神戸ポートアイランドのトラックスケールに偏荷重測定が可能となる改造を施し、11年6月20日から無償で測定を開始した。偏荷重や警告箇所を記載した測定結果をドライバーに提供するとともに、計測した情報を専用データベースに蓄積し、積地別、品名別などに整理、分析し、公表していく予定。
今後も、全国の港湾で偏荷重の計量所が広がっていくことが期待される。
重心測定も完成間近
さらに、左右のバランスだけでなく、貨物の「高さ」も横転事故の要因と考えられることから、3次元によるコンテナの「重心値」の測定も試みられている。
(社)横浜港湾貨物計量協会は鎌長製衡(株)と協同で重心値測定機器を開発中。既に精度を上げる段階に入っており、完成間近である。
(一社)日本海事検定協会も、大和製衡(株)と協同で重心値測定の実証実験を行っている。
運転者が重心値を把握できるようになれば、事故の危険性がいっそう減少できる。実用化が期待される。
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