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イノベーションで不連続の変化起こす


寺岡 和治

(株)寺岡精工 代表取締役社長

vol.3

日本計量新報 2011年8月14日 (2882号)4-5面掲載

イノベーションとマーケティングが必要

ただ、それにはイノベーションとマーケティングが必要です。今あるものをよりよくするというだけでは、成長することは無理だと思います。不連続な変化を起こしていく必要があります。

新しいカテゴリーをつくる

寺岡和治例をあげます。数年前にアップルが「iPhone」を市場に投入しましたね。当時、日本では携帯電話のマーケットは、完全に飽和状態でした。そこに、これまでは携帯電話とは無縁だったアップルが参入して、ここに「スマートフォン」という新しいカテゴリーができたわけです。従来型の携帯電話からスマートフォンへ、マーケットが移動しました。これが不連続のイノベーションです。
 電話の使い方を変えてしまったわけです。もはや携帯電話という概念ではないですね。インターネット端末、アプリケーションを動かす端末としての機能が前面に出て、電話もかけられますということですから。

伸びる余地はいくらでもある

個々の企業にとってみれば、全体のマーケットがどういう状態であるかということよりも、どうイノベーションを生み出していくのか、そしてそれを市場に展開していく知恵を出せるかということが大事です。これがすべてであると言ってよい。マクロは伸びていなくても、個々の企業が伸びる余地はいくらでもあるということです。

オリジナルなパイを焼こう

われわれは以前から、市場をシェアするという考え方ではなく、小さくてもよいからオリジナルなパイを焼こうと言ってきました。満腹しているマーケットでは、別腹をつくるということです。今お話ししたアップルの例は一番わかりやすい例ですね。そういう活動をやっていこうということです。これが成熟したマーケットで伸びていく方法だと思います。そして、中国やインド、アジアやブラジルなど、まだおなかがすいているマーケットで、一所懸命に活動するということです。

まずはやってみる

 経済が好況だとか不況だということは、あくまで企業活動の総和です。好況や不況が先にあって企業活動の状況が決まってくるのではありません。
 だいたい経済予測が当たった試しがありますか。未来を予測することは不遜だといってもよいですよ。まず、自分なりに考えてやってみるべきです。野球の打者だって、3割打てば上々でしょう。失敗するリスクより、やらないことによるリスクのほうが遙かに大きいです。

不連続な変化を起こす

−−寺岡精工が目指す方向をお話しください。

流通小売業が抱えている問題を解決

寺岡精工は、いかに不連続な変化をマーケットに起こすかということを追求しています。易しくはないですが、さまざまなトライをしていきます。
 一つは、顧客の変化への対応です。当社の昔のお客さまは、町の肉屋さんなどでした。そういう小売店が、業態をスーパーマーケットなどに変えていきました。われわれもそういうお客さまの業態変化に対応して、はかりのメーカーから、お客さまを軸にして流通小売業が抱えている問題を解決できるメーカーへと変わってきました。そのなかに、不連続の変化を起こすチャンスの窓が開いています。

第2のレジ革命仕掛ける

現在、スーパーマーケットで使われているPOSシステムは約30年前に生まれました。手打ちのレジからバーコードによる読み取りへの劇的な変化ということで、当時はレジの革命だったわけですが、今では当たり前のシステムになっています。
 寺岡精工は今、レジ革命という当時のマグニチュードを遙かに超える革命を仕掛けています。
 これは、お店に来るお客さまに働いてもらおうということです。もともとスーパーマーケットというのは、これまでお店の人がやっていることをお客さまにやってもらう、つまりセルフサービスということで100年前に始まったものです。これも社会的なイノベーションです。この考え方を延長していくと、レジもお客さま自身にやってもらえばよいということになります。

セルフレジの普及目指す

 「これはお店の手抜きではないか」という人もいます。しかし、お客さまの声を聞いてみると、「レジで延々と順番を待たされるより、早く済ませられる方がありがたい」という人がけっこういらっしゃいました。
 今は、銀行へ行ってもATMが設置されていますね。病院での支払いも自動支払機が普及しています。ガソリンスタンドもセルフスタンドが増えています。あらゆる分野でセルフ化が進んでいるわけです。
 そういう社会状況のなかで、「レジも自分でやって早く済ませたい」という人がけっこう出てきているわけです。
 お客さまにとってもメリットがあり、経費節減という面でスーパーマーケットにとってもメリットがあります。
 ここ数年以内に、スーパーマーケットのレジをセルフレジに変えていきたいと思っています。

ピッキングに革命起こす

物流の分野では、配送センターなどで、お客さまからの注文の品を取りそろえていくピッキング作業があります。
 この作業では必ずといってよいほどミスがおこります。いくら検品をやってもミスは防げません。また、効率的にやらないと作業に時間がかかってしまいます。
 これを寺岡精工は、不連続な発想で変えていこうとしています。ピッキング作業に使うカートにカーナビシステムを組み込みました。ピッキングが必要な商品情報をサーバーからダウンロードすると、その注文商品をピッキングするための一筆書きの最短・最適なルートをカーナビシステムで割り出します。大規模な自動化システムを使わなくても、作業効率を飛躍的に向上させることができます。
 また、商品の質量をあらかじめ登録してありますから、それを情報として持っています。一方、ピッキングカートにははかりを組み込んでありますから、ピッキングすると同時に、商品ごとの質量データと、カートに乗せたときに測定したデータを比較しますから、瞬時に検品もできるわけです。改めての検品作業が不要になります。

従来の枠組みに囚われない

このように、新しい技術的なアイデアで、お客さまの仕事のしかたを根本的に変えてしまうわけです。物流マーケットでは自動化も進んでおり、工夫はやり尽くされた感があったわけですが、発想をがらっと変えることによって新しいマーケットが生まれてくるわけです。
 このようなことを寺岡精工は、いろいろなフロンティアで仕掛けています。まさに新しいカテゴリーをつくるということです。これは、従来の枠組みに囚われないということです。新しいカテゴリーをつくるということは、既存のカテゴリーをぶちこわすということですから。つまり、従来のような縦ではなく、横に切るカテゴリーをつくっていくわけです。行政が決めた縦のカテゴリーをやめて、横断的に横軸で考えていきます。
 寺岡精工の現在の売上は500億円ほどですし、世界連結で700億円ほどです。ですから、先ほども申しましたが、伸びしろはまだまだあるということです。

人材は世界から集める

−−従来の枠組みに囚われない社員をどう育てていきますか。

場を与えてジャマをしない

人材育成という発想が、そもそもおこがましいという気がしています。教育をするというよりも、社員のやる気や自由な発想を、上司や会社がジャマをしないことが大切です。会社は、場を与えることはできますから、場を与えてジャマをしないということです。
 従来の枠組みに囚われない発想をする社員を、教育によって育成しようとしてもなかなか育成できるものではありません。場を与えて、その中から勝手に育ってくる人達を発掘するという感じです。

学校の勉強とは対極にある

不連続な変化を起こす発想は、学校の勉強のスタイルとは対極にあるからです。学校で勉強する内容は答えがはっきりしていることばかりです。すべて正解があります。正解がある問題を上手に、効率的に解ける人が、学校では優秀な人です。
 ところが、ビジネスの世界では、答えがない問題がたくさんあります。それに対して自分はどう考えて、どう行動するのかが問われてくるわけです。これにはただ一つの正解などはありません。
 学校の成績が優秀な人は、答えがある問題を解くこと、正解を探すことには誰よりも長けています。しかし、そういう考え方からは不連続な発想は出てきません。

求めるのは本当の意味での頭の良さ

ビジネスで求められる頭の良さは、偏差値的な良さではなくて、ゼロベースで自分の頭で考えることができる、本当の意味での頭の良さです。  革命は、正統派ではなくて、異端児がやる仕事でしょうね。そういう異端児は、教育ではなかなかつくれませんね。

外国人の採用、積極的に

外国人の採用にも力を入れています。人工知能だとか画像処理の領域では、かなり高度な数学の能力が必要です。そういう人材は国内には少ないので、数学では世界的権威であるロシアのモスクワ大学に要請して、ロシア人を採用したりしています。  中国の学生も目線が高いですね。司馬遼太郎の『坂の上の雲』にでてくる明治時代の学生のような志の高さを持っています。  人材を採用するのに国籍は関係ありません。世界中から、能力が高い人材を集めています。 −−ありがとうございました。 (おわり)

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