計測の確かさを表現する「不確かさ」という新しい概念が登場して久しいにもかかわらず、計量計測関係者はこの理解と処理に苦心惨憺している。 計測の確かさは精度とか精密さといった形で表現され、これを器差などということもあって、計量法では計量器の誤差のことを、不確かさという表現を使わずに器差として表現している。ここにいう器差とは標準器である基準器と対照したときの誤差であり、目盛りや最小表示値が示す誤差の割合である。検定公差の2倍の器差以内で使用されていればそれが認められるということで、これを「使用公差」としている。はかり(質量計)の場合には2年ごとに実施される定期検査の際の公差でもある。ほかの特定計量器の場合、役所が使用中の適正な状態を確認する立ち入り検査の合否判定基準は、検定公差の2倍となっている。 検定公差が器差という形で表現されている一方で、「不確かさ」概念が登場し、計測の標準器や基準器といった計測器を計測する器具などでは「不確かさ」として表記することが求められている。計量計測や計量計測機器の精密さ、あるいは確かさのつながり(連鎖)を表現する計量計測のトレーサビリティにおいては、器差という表現を用いずにほぼ同じことを説明する「不確かさ」として表現することになっている。「不確かさ」は、その計測器の精密度を測定する際の周囲温度や気圧、風による影響あるいは振動状況などの環境条件を織り込んで説明することになっていて、条件が違えば結果が違うことになり、また違った環境条件で測定された結果のもの同士でもその精密さのつながりの判明に手がかりを得られるようにしている。 測定環境や測定条件を同一にしていれば測定結果の照合は簡単であり、計量法の精密さの表現である器差はこうしたことが前提になっている。それは常識的に考えてその測定の精密さを実現する普通の測定条件ということであって、質量計(はかり)の定期検査の測定条件は振動が少なく風の影響などがないことなどで、そのハカリが使われている条件とほぼ同一ということだ。これに対して計量器のトレーサビリティの関係を示す場合には「不確かさ」で表現することになり、この場合には測定時の周囲温度や大気圧(気圧)などの条件を織り込む。条件が違えば測定結果が異なるのでその測定結果を実現した環境条件を書き込むのが「不確かさ」の表記方式である。「不確かさ」概念が計量計測の世界に登場して10年ほどが経過しているにもかかわらず、今なお企業等における品質管理と計量管理(計測管理)を業務とする計測技術者や計量士などが、この「不確かさ」の理解とその表現方法で悶絶打つような格闘をしていることは滑稽でもあるが、このことは「不確かさ」概念を計量計測の直接的関係者以外に普及させ理解を求めていくことの困難さを如実に示している。 とにかく面倒くさくて見るのも聞くのも嫌だという「不確かさ」の現状に対して、コンピュータソフトウエアとコンピュータを使うことによって、分銅や電子はかり・電子天びんの「不確かさ」を表記することができるソフトウエア・ツールが登場した。分銅は質量の標準器であり、この標準器を元にして電子はかりの精密さの設定や確認が実施される。この一連の計測行為を計量管理とも校正ともいう。計量機器の計量管理と校正の実務の結果を手順に従って実施し「不確かさ」の表現形式で表記するこのハカリの計量管理ソフトウエアは、「不確かさ」表記で悩める人々をたちどころに救うツール(道具)である。 「不確かさ」表記の難しさ解消の方向性がハカリの計量管理ソフトウエアの登場で見えてきた。今後はハカリ以外の機器や計測量測定分野にも「不確かさ」表記ソフトウエアが登場するようになるのではないか。全部の計測量をカバーする「不確かさ」表記ソフトウエアが登場することも考えられる。どのように説明しても一般の人をよく理解させることができないと思われた「不確かさ」表記が「不確かさ」対応万能ソフトウエアで解消する。ソロバンが電卓(カリキュレータ)に変わり、会計処理が会計ソフトで行われるようになったように、計測の確かさや計測機器の精密さを表現する新しい方法としての「不確かさ」表記は「不確かさ表現ソフトウエア」によって実施されることになることであろう。ただし、そうして表記された「不確かさ」を、一般の人々はもとより計量計測の当事者が理解して使いこなすことの困難性は変わらない。世の中の人々が物事を判断する時は諸条件が一定という状況を前提としているからであり、真理の把握もこの条件で行われているからだ。