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日本計量新報 2009年3月29日 (2767号)

費用をケチる地方公共団体の長は住民福祉実現を拒否する反逆者だ

計(はか)ることは知ることであり、人は、知ることを通じて文明をつくり、文化を育(はぐく)んできた。人は知るために計り、計って知ったことをさまざまに利用してきた。知るための方法は計(はか)ることの方法である。
 精密に計ることによって見えてくることがある一方で、大凡(おおよそ)計ることができればかなりのことを知ることができることもある。物事や事象はそれを細密に捉えることでその内容を知ることができることがあり、その一方では細密性よりも変化要因や性質を求め、知るために細密性を要しないこともある。
 数学は事象を説明し、解き明かす学問である。計量はこれに重なる。数学は数式で事象が表現されるため、数式を読めない者には意味がわからない世界であるが、数学的装いをした経済学は「金融工学」などという用語をくっつけて真っ当に見せかけていたものの、虚偽性が金融恐慌の発生によって露呈してしまった。

 計量法は計量の文化をかたちづくる計量制度の基(もとい)である。計るための基準となる単位や標準を定めることと、取引・証明にかかる計量の安全を確保することがその基本となる。
 計量器を計ることが検定や定期検査であり、ハカリ(はかり・質量計)は検定と検査の方法が厳格に定められている器種である。こうした計量器の代表としてガソリン計量器やタクシーメーターがあり、そのほかに環境計量器などがある。
 使用中のハカリを計ることがハカリの定期検査だ。ハカリの定期検査を実施する義務を負うのは地方公共団体であり、都道府県の計量検定所などや市の計量検査所がこの実務を担当する。その実務は指定定期検査機関制度を利用して地域の計量協会などに「委託」していることが多い。「指定」という形式を取った「委託」は、委託費をケチった途端にケチった度合いに応じてハカリの定期検査の実施に漏れが生じる。計量行政費用の削減は合理化などで補うことができるものではなく、それはそのまま地方公共団体の計量行政義務の放棄やサボタージュにつながる。

 製造される計量器の0・1%にも満たない計量器を役所が義務として検査することにより計量を正しく行われるように仕組まれているのが、計量法の規定する質量計(はかり)の定期検査制度である。
 ハカリの検査制度は欧州では広く厳格に実施されていることであり、この検査制度は世界標準(ワールド・スタンダード)になっている。欧州に範をとってつくりあげてきた計量制度が、日本の地方公共団体の意識の低下によって打ち棄てられようとしている現状は、福祉増進を目標とする現在の行政に逆行する。
 適正な計量の実施の確保という計量法の目的はわずかの費用で実現できるものであり、この費用をケチるような地方公共団体の長とその組織責任者は、住民福祉実現を拒む反逆者だ。


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