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日本計量新報 2009年11月1日 (2796号)

人が生きることは他の物質とエネルギー代謝をすることである

人間は古代から悩んで生きてきた。社会は人間とともに悩みを抱いて、歩みをつづけてきた。縄文の土偶には祈りが込められており、それは自然への畏(おそ)れと敬(うやま)いが入り交じったものであった。考古学の権威で日本計量史学会の副会長を務めていた故八幡一郎博士が後押しして発掘した、長野県茅野市の尖石遺跡(とがりいしいせき)から出土した縄文のビーナスほかの土偶などから、そうした縄文人の心を読み取ることができる。弥生期の卑弥呼の占いなどにもとづく祭祀(さいし)なども、自然への畏れがあってこそ成立するものである。欧州の中世の世界は、畏れの世界そのものであったといってよい。天候不順などによってもたらされる貧困や病気などによって、人は生きることさえ困難であった。人と社会は戦争と飢餓にも悩まされてきた。
 人と社会は、ある一瞬を除けば、悩みながら歩いている。戦後、日本はずっと悩みや課題を抱えてきた。食糧難、就職難、公害問題、石油危機、好況のあとの深刻な不況、社会経済の仕組みの行き詰まりがもたらす弊害、そして地球温暖化問題などである。
 化石燃料を燃焼させると必ず発生する二酸化炭素(炭酸ガス、CO2)が高層で布団のように作用するために地球の気温が上昇するという地球温暖化問題においては、二酸化炭素の排出を抑制し適正規模に圧縮することが解決の手立てとなる。日本では電力をエネルギーとして使う割合は23・0%である。電力を起こすために化石燃料を使っている割合は2007年度で、石油等13・2%、石炭25・3%、LNG27・4%の合計で65・9%でこれらはいずれも火力発電である。水力発電7・6%、新エネルギー1・0%、原子力発電25・6%となっている。原子力発電は地震による事故その他の原因による事故などによって休止中の設備があり、新規の発電所建設計画がないので政治面での動きがない限り現状では伸びることがない。世界の太陽光発電設置容量は2000年以降急速に増え、2007年はIEA諸国合計7840MW(前年比約38%増)となっている。日本は1800MW、ドイツが2800MWほど。風力発電も年々導入量が増加し、2008年の導入量は前年比約29%増(累計12万MW)。日本は1854<CODE NUMTYPE=SG NUM=9BF5>、カナダが2100MWである。しかし、増加しているとはいえ太陽光発電、風力発電などの新エネルギー発電は、全体の1%にとどいていないほどである。
 1973年度から2007年度までの間の日本国のGDPは約2・4倍なのに対して、産業部門の最終エネルギー消費は1・0倍とGDPの伸びと比較してエネルギー消費の伸びは小さい。産業部門別の最終エネルギー消費割合は産業部門は73年度には65・5%であったものが07年度には45・6%に縮小しており、73年度から07年度でのエネルギー消費は変わっていない。民生部門は73年度には18・1%であったものが07年度には31・2%に増加している。この間の伸びは2・5倍。運輸部門は73年度には16・4%であったものが07年度には23・2%に増加している。この間の伸びは2・0倍。民生部門における電力需要の増大は家庭における家電製品の購買などによるものである。省エネ家電の開発と普及によって、民生部門の電力需要削減は国の政策として実施されている。
 人が生きることは、食物その他の物質とエネルギー代謝をすることである。
 縄文時代の日本に住む人々は、多い時でも30万人弱であり、10万人台が長かったとされているから、この頃の人々のエネルギー代謝のなかの二酸化炭素は、自然林が軽々と吸収して酸素供給のおまけまでつけていた。
 現代の人々は、家庭のコンセントから電気の供給を受けては二酸化炭素がでた、自動車を運転しては大量に二酸化炭素をだしたと、後ろめたい思いをもって生きている。一人の力ではどうにもならない自動車社会や電力消費社会のことで悔い悩んでいてはならない。ガソリンなど化石燃料を使う自動車が走る交通手段、あるいは運輸手段は急には変更できない経済社会システムになっている。ガソリン(化石燃料)を使って動く効率の改善から、化石燃料を使わない輸送手段への移行を決めて、段階を経てそれを実行することである。
 日本の自動車会社はハイブリッドカーが先行し、これを高効率のガソリンエンジンが追いかけ、また電気自動車がでてくるなど、大きな変化がおきている。また、上手に水素をつくって電気をおこして、その電気で走る自動車が普及することも夢である。
 同じ原理で諸産業の電気をおこすことができれば、二酸化炭素の排出量は抑えられる。原子力発電が普及しているフランスやドイツを参考にして大いに学ぶことも大事である。しかし、チェリノブイリの原子力発電所の事故や、日本における原子力発電事故は、原因とその対策を徹底的にたてて臨まなくてはならないことであろう。
 人は悩まずに生きていたいものであるが、人間社会が共同して引き起こしたやっかいな問題には、善良な人であればあるほど悩みを大きく抱えることになる。
 しかし、その悩みの解決には、社会の働きと政治の力を必要とする。

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