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日本計量新報 2009年11月15日 (2798号)

持ち場の仕事に打ち込むことが自分を鍛え社会に役立つ人間をつくる

「末は博士か大臣か」という言葉は物事の早わかりができる神童に掛けられる。勉強ができる、物分かりがよいことは、望みの仕事に就きやすいということであり、軍人が幅をきかせていたころには海軍兵学校、陸軍士官学校に行き、それぞれの大学に進むことは、海軍大臣、陸軍大臣、総理大臣になる近道であった。博士の価値が減じた現在ではこの博士号という資格にこだわるのは滑稽かもしれないが、学問に秀でていることを博士と表現したのが冒頭の言葉である。
 いつの世からか、将来どのような職業に就きたいか、何をしたいか、などと子供や学生に聞いて、実際にはできもしないことをそそのかすようになった。皆がプロ野球選手やプロサッカー選手になれるわけがないにもかかわらず、そうした題目を掲げて煽って競わせる風潮は、大人と社会ともに無責任である。乗る飛行機がないのに飛行学生を大量に採用した軍部のやり方がその典型であり、現代では、学校の定数割り当てと社会が求める需要との大きな隔たりを補わないことなどもそれと同じだ。自分がやりたいことはそれなりにあるとしても、それをする能力が自分にあるか、といったことが20歳やそこらの年齢でわかるはずはない。
 人がみな同じ職業を求めても、その希望が叶うわけではない。飛行機や空を飛ぶことにあこがれたり、社会がその職業を褒めたからということで、希望かなって就いた日本航空の職場は、いまではとてつもなく荒れた状況にある。
 世の中で仕事に実際に就くことは、自分の希望と適合しないのが普通である。個人の希望がどうであろうと世の中にはしなければならない仕事があり、その仕事を誰かから割り当てられるようになっている。多くの人があこがれる仕事に就いたとしても、その仕事が天職であると思っている人は滅多にいない。与えられた仕事をとことん追求していくうちに仕事の内容ややり方がわかってくるし、成し遂げた仕事に対して社会が満足するようになる。自分は志とは違っていつの間にか流されてしまったと思うかもしれないが、与えられた持ち場で仕事に打ち込むことで自分が鍛えられ、社会にとってもなくてはならない人になるのである。
 宇宙の謎を解く鍵となる「特異点定理」、「特異点と時空の幾何学」、「ブラックホールの蒸発理論」、「無境界仮説」、「時間順序保護仮説」などいくつかの理論をたてつづけに打ち出してきたのが、宇宙の姿を描く現代随一の学者である、スティーヴン・W・ホーキング博士である。博士は、オックスフォード大学ユニバーシティカレッジ在学(ボート部に所属)中に異常を感じていた体が筋萎縮性側索硬化症と判明したころから、自分の命は短いと考えて、その後に進んだケンブリッジ大学大学院、応用数学・理論物理学科で宇宙論に取り組み、大きな成果を挙げてきた。博士のパブリックスクール時代の成績は中程度であったが、命が短いと考えるようになってからは、真剣に勉学に挑んでいくつかの重要理論をつくりだして、この分野のもっとも重要な人となった。
 ハカリ製造の工場で15歳から働き始めたある人は、ハカリを構成するナイフエッジとその関連技術と理論を追い求めて高校、大学へと進み、ハカリ理論の大学教授となり、ハカリ理論で博士号をとり、現在はある大学の経営の責任者である。ハカリがとことん好きというこの人の一念は、ナイフエッジに代わる新しい支点方法として弾性支点理論を説き起こすなど大きな成果をあげ、その人を磨き大きく育ててきた。仕事に打ち込んでいるうちに、社会にとって人とその仕事がなくてはならないものになっていったのである。
 ハカリ博士は、絵画の世界にもハカリを探すのである。徳島県鳴門市にある大塚国際美術館に100回以上も足を運んで、展示されている1074点の絵のなかにハカリ(天秤など)が描かれている作品11点をみつけだした。12点目はほぼ確実にハカリと判明しているが、これの検証をしている。
 好きであるとどのようなことができるか。ハカリ大好きのハカリ博士が絵画の描かれているハカリや計量器を見つけだすことなどはそれであり、中世の絵画から人々とハカリの関係ならびに暮らしのあり方などを考証する。
 ホーキング博士の宇宙解明への執念は、「特異点と時空の幾何学」、「ブラックホールの蒸発理論」など宇宙理解のための新しい鍵を開けた。

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