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日本計量新報 2010年8月1日 (2832号)
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現場の実際に即した不確かさの普及を
計量計測産業の現場では、長年「計測器で計った値がこの範囲にあれば合格」と考えられてきた。近年、現場でも「不確かさ」の導入が推奨されているが、今なお「この範囲にあれば合格」式の考え方が主流である。
計測器には目盛りや、目盛りに代わる表示があり、これらを読むことで計測が行われる。計測器には個体ごとの誤差があり、はかり方によっても誤差が生じる。計測に絶対というものはないのだ。そこで、そうした誤差を事前に想定して、「計った値がこの範囲にあればよろしい」という許容誤差の帯域を決めている。この誤差の許容帯域を「ガードバンド」と呼んでいる。
「ガードバンド」の考え方は、「不確かさ」が導入されつつある昨今においても古びてはいない。OIML(国際法定計量機関)では、試験の合否判定の適合性基準として、従来経験値として決めてきたガードバンドの幅を「不確かさ」を使って決めようという考え方が出てきた。上限値および下限値から不確かさの半分だけ内側に、測定における実際値を設定することによって、不確かさを考慮しても適合の上限値と下限値を超えることがないようにしたものである。
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そもそも、「不確かさ」とは何なのか。
国際度量衡委員会(CIPM)の主導で計測値の信頼性の表現法や算出法の統一が推進されるなか、1993年、国際標準化機構(ISO)など7つの国際機関の共著による「計測における不確かさの表現ガイド」(Guide to the Expression of Uncertainty in Measurement、略称=GUM)が刊行された。その中でuncertaintyという言葉が登場し、呼び方の統一化が提唱された。uncertaintyはGUMの日本語版では「不確かさ」と表記され、「測定の結果に附随した、合理的に測定量に結び付けられ得る値のばらつきを特徴づけるパラメータ」と定義されている。
しかし、この「不確かさ」は、言葉としてわかりづらく、意味も難解だ。概念を学ぼうとしても、普通の人には禅問答のように難しく聞こえたり思えてしまったりもする。
たとえば、ある計量協会の会長を歴任した二人に「不確かさとは何のことか」と尋ねてみたところ、一人は「分からない」と答え、もう一人は「計量の本質とは何か」と問われたと勘違いして「ほどほどの正確さの実現」ということであり、目的に沿った正確さの実現のことだ、と答えた。
また、あるハカリ販売者は「僕はそのような難しいことは分からない」と答え、ハカリメーカーの営業部長は「正確さのことであり、僕からお客さまに直接に細かく説明したことはない。必要があれば技術者が話をする」と答えた。 品質管理に関係する技術者は、「計測の国家標準器とのトレーサビリティと関連をもった正確さの度合いのことである」と答えた。いずれの答えも、不確かさを十分に説明しているとは言い難い。
計量器を製造したり、計量器を販売したりする現場の人々の多くは「不確かさ」概念を学ぼうとしても、実際にはその理屈の詳細を頭の中にたたきこんで理解するまでには至っていない。「不確かさ」という言葉だけが一人歩きしており、現場でそれをどのように生かせばいいのかは理解されていないのが現状である。
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こうした状況下で求められるのは、uncertainty(「不確かさ」)という概念を世界に普及させようとしている当事者が、「不確かさ」の適用方法を、計量計測の現場に即して示すことである。
企業内の「不確かさ」担当の計測技術者にしても、その多くは現場での測定にその都度不確かさの概念を落とし込んで通用させることができるほどの知識を持ってはいない。そこで、あらかじめ「不確かさ」を考慮に入れて定めた「ガードバンド」を現場に示す。現場では、ガードバンド幅を基準として作業をすればよく、従来のやり方とほとんど変わらないことになる。
こうした方式を現場に適用する場合は、ガードバンドを事例ごとに示していくことが大事になる。それを誰がするかが、新しい課題になる。本紙上での品質管理論議の場では、すでに一覧表方式が提案されている。
「不確かさ」の理論を確立するのと同様に、その理論が現場で広く活用されるための方法を確立し、広めることが求められているのである。
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