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日本計量新報 2010年9月12日 (2837号)

計測値の改ざんと健康補助食品摂取に見る「本末転倒」

昔から日本人が食べてきた食材を中心によく食べること、身体をよく動かすこと、頭脳をよく使うこと、よく笑い、人と関わり、よく眠ること、これらが人の心身の健康の<RUBY CHAR="基","もとい">である。こうした生活習慣をしたことが原因となって発症する病に、現在、多くの人が苦しんでいる。特に食べ物と健康の関係は重要だ。中国の「医食同源」は現代人が大いに参考にすべき食文化である。

飲食すれば健康に良いという安易さから、日本では健康補助食品が人気である。一粒(あるいは一杯)で健康になれる、といったような商品がテレビ、ラジオ、新聞、雑誌などで宣伝され、その量に比例するように商品が売れる。しかし、摂取するだけで皆が健康になるような気になるのは、錯覚である。
 また、流行した健康補助食品が20年、30年と続く事例は少なく、効用をそのまま鵜呑みにすると、後で苦笑いすることになる。
 カルシウムが骨を作る栄養素だからといって、骨が弱くなった人がこれをたくさん摂取すればそれだけで骨が強くなる訳ではないということは、最近の研究ではっきりしている。カルシウム以外の、ビタミンや栄養要素との兼ね合いがあって、人の骨は強くなったり弱くなったりするので、骨=カルシウムと単純に結びつけてはならない。
 少し細工をしたカルシウムの粉の、健康への「効果」に心酔して飲用を人に勧めることに執着していた人を身近に知っているが、その粉のブームは遥か彼方の出来事になっている。
 健康補助食品が健康の基であると思い込む危険性を指摘するのは、計量計測の世界で頻発している、計測値を改ざんする行為とどこか共通する臭いがするからである。

最近では、排水基準など国が決めた基準値にあわせて、測定した値を改ざんする事例が起きている。その背景として、実現不可能な基準値を設けていないかどうかということも考えてみなくてはならないだろう。法令遵守をコンプライアンスと述べたりして、守れない法律や規則を形式的に守ることに躍起になり、これを建前とする風潮が変形して、計測値の改ざんやねつ造につながる場合がある。
 また、法令適合と法令違反との峻別が、刑務所と外界を分ける塀の上を歩くようなすれすれの状態になっていることがままある。法令の解釈と運用いかんによっては、塀の中に落ちる状態にある。

しかし、そういった背景があるにしても、計測値の改ざんはあってはならない。計ることで実際の状態を知ることを目指しているのに、基準値に入らなかった計測値を無視したり、隠蔽したりするのは本末転倒である。自分の悪い生活習慣に目をつむって健康補助食品を摂取し、健康になった気でいるのと同様である。

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