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日本計量新報 2010年11月7日 (2845号)
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ビジネスの神髄を見い出すことが危機脱出の鍵である
関係する市場が縮小に転じて、これまで通りの仕事をしているのに、仕事が回ってこなかったり、商品の注文が落ち込んで経営が困難な状況に陥っている業者が数多くある。
中国経済は、すでに日本の経済規模より実質的に大きく、ある試算では8年後に日本の経済規模の2倍になるといわれている。中国とそれに続く人口12億人のインド、そしてアジア諸国の経済規模拡大は、この先10年は確実に続くだろう。
一人当たりのGDPは、しばらくの間はこれら諸国に追い抜かれることはないと思われる。しかし、将来を見越した日本の経済と企業の在り方、個人の能力を増大させる方策を考えると、教育や社会の在り方には懸念材料がたくさんある。
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日本のGDPに占めるサービス産業の割合は一番であり、今後もっと伸びていくと予想される。経営規模を拡大するには、この分野で新しいビジネスを起こし、発展させていく必要がある。そのためには、起爆剤となる新たな商品開発が必要不可欠であり、それを生み出す個人の能力育成が求められる。国民個々の能力の土台となるのが、義務教育を始めとした教育制度である。
日本の教育を受けた人物が、それを土台として、後に学問を大きく発展させた例もある。理化学分野では、(社)島津製作所の田中耕一氏が2002年のノーベル化学賞を授賞している。受賞理由は「生体高分子の同定および構造解析のための手法の開発」。その内容は次のとおりである。
全ての物には、質量がある。分子の質量は、その種類や性質を調べる上で非常に重要である。田中氏は、今まで不可能とされていた、タンパク質を分子レベルで量る質量分析のための「ソフトレーザー脱離イオン化法」を開発した。タンパク質を壊さないでイオン化することに、1985年2月、世界で初めて成功し、タンパク質を質量分析で研究する道を開いた。
その後、開発した技術手法は多くの研究者の努力によって発展して、今では病気の診断や薬の開発になくてはならない技術となっている。同氏を含め、多くのノーベル賞受賞者が誕生しているのは、今までの日本の教育制度の成果ともいえる。
今後、日本でさらに多くの研究者や技術者が、ノーベル賞が授与されるほど優れた成果をあげるためには、十分な教育制度と社会の仕組みが求められる。
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技術の開花・発展には、能力に加えてタイミングや偶然といった運も必要だが、技術を応用した製品開発が成功するためには、品質に加えて、市場を睨んだ開発を行う必要がある。市場の状況を把握したうえで「ああすれば、こうなる」ということが筋道立っている事業は上手くいっており、ビジネスモデルとなる理想の形となる。
現在の、日本の経済規模が縮小して欧米の経済も良くないという状況は、これまでのビジネスの在り方としての「ああすれば、こうなる」という図式が崩れた、苦しく危機的な状況であると言える。この状況を好転するには、これまでの成功事例をそのまま用いるのではなく、そのなかに潜むビジネスの法則や神髄を見いだすことが鍵となる。これらを理解したうえで、これまでやらなかった新しいことをやることが次の発展につながる。老いて知恵が枯渇する人もあれば、「窮すれば通ず」ということで、必至に考え行動して新しい道を拓く人もいる。
どんなビジネスにも通じる神髄としていえるのは、「お客さまにも社会にも愛される仕事をする会社が成功する」ということだ。仕事の内容が、社会に求められるものであることが重要である。
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