漢字を使う時の目安とされる常用漢字表が1981年に定められて以来、29年ぶりに改定される。年末までに内閣が新しい漢字表を告示する予定だ。 2005年から常用漢字表の改定を検討してきた文化審議会は、2010(平成22)年6月7日の第51回文化審議会総会を経て「改定常用漢字表」を文部科学相へ答申した。6月7日は「計量法」が公布された日で、旧計量記念日である(新計量法の施行にともない現在は11月1日)。計量に関する漢字である錘(すい)、勺(しゃく)、匁(もんめ)と、科学技術と関わりの深い銑(せん)、脹(ちょう)、合わせて5字を常用漢字表から外すことが、その日に決定したのは、皮肉なことである。外す文字は上記5字のみで、196字を追加する。削除漢字は当初6字であったが、"斤"(きん)は残した。現在の常用漢字1945字に対して「196増5減」となるため、改定常用漢字は2126字になる。 追加する196字はつぎのとおり。挨 曖 宛 嵐 畏 萎 椅 彙 茨 咽 淫 唄 鬱 怨 媛 艶 旺 岡 臆 俺 苛 牙 瓦 楷 潰 諧 崖 蓋 骸 柿 顎 葛 釜 鎌 韓 玩 伎 亀 毀 畿 臼 嗅 巾 僅 錦 惧 串 窟 熊 詣 憬 稽 隙 桁 拳 鍵 舷 股 虎 錮 勾 梗 喉 乞 傲 駒 頃 痕 沙 挫 采 塞 埼 柵 刹 拶 斬 恣 摯 餌 鹿 叱 嫉 腫 呪 袖 羞 蹴 憧 拭 尻 芯 腎 須 裾 凄 醒 脊 戚 煎 羨 腺 詮 箋 膳 狙 遡 曽 爽 痩 踪 捉 遜 汰 唾 堆 戴 誰 旦 綻 緻 酎 貼 嘲 捗 椎 爪 鶴 諦 溺 填 妬 賭 藤 瞳 栃 頓 貪 丼 那 奈 梨 謎 鍋 匂 虹 捻 罵 剥 箸 氾 汎 阪 斑 眉 膝 肘 訃 阜 蔽 餅 璧 蔑 哺 蜂 貌 頬 睦 勃 昧 枕 蜜 冥 麺 冶 弥 闇 喩 湧 妖 瘍 沃 拉 辣 藍 璃 慄 侶 瞭 瑠 呂 賂 弄 籠 麓 脇 ◇ 三鷹市などの「鷹(たか)」や、「玻(は)」、「碍(がい)」の3文字は、一般からの意見募集で常用漢字に追加する要望が強かったが、2010(平成22)年4月13日開催の第41回漢字小委員会で追加を見送られた。これにより2009年11月の試案通り字種を「196増5減」として基本内容が決定した。 ただし「碍」については内閣府の障がい者制度改革推進本部で「障害」の表記の在り方に関する検討が行われおり、その結果によっては、内閣告示で追加される可能性がある。 ◇ 小学校6年間のうちに学習する漢字として文部科学省が定めている、いわゆる教育漢字(または学習漢字)は、現在、新常用漢字表の半分ほどの1006字である。常用漢字の改定は、教育漢字の見直しにも影響することになるだろう。 ◇ 常用漢字は「法令・公用文書・新聞・雑誌・放送等、一般の社会生活で用いる場合の、効率的で共通性の高い漢字を収め、わかりやすく通じやすい文章を書き表すための漢字使用の目安」(内閣告示)として制定されているものである。漢字使用の目安であって制限ではないため、強制力を有するものではない。今後も、個々人の判断でこれらの漢字を使用することは可能である。しかしながら、不特定多数の人を対象にした情報は、常用漢字の範囲内で記述されることが望ましいとされるのは明らかである。その目安から、計量用語である錘(すい)、勺(しゃく)、匁(もんめ)が外れたことに対して、計量計測の関係者はどのような考えをもつことであろうか。 富士山では、山小屋のある場所を「七合五勺」といったように表記しているが、この「勺」になじみのない人は、これから増えていくのだろうか。童歌(わらべうた)「花いちもんめ」も、「匁」の字が目に触れなくなるにつれて、歌詞の内容や意味が不明になっていくかもしれない。 計量計測に関するメディアとしては、そのような未来に寂しさを覚える。
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