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日本計量新報 2011年4月10日 (2865号)

効率追求の社会にある危うさは計測器にも当てはまる

カキの養殖を業としている気仙沼市の漁業者がTBSテレビの取材に対し、「イカダも船もないよ。何もできない。何をどうしてよいかもわからない」と語っていた。NHKテレビの放送には「何もかも失った。しかしそうした事実を直視することはできないし、受け入れることもできない。未来に対して何らかの希望を抱けるようになってからそのことは考えていきたい」と語る被災者の姿があった。その心情は察するにあまりある。

 東北から関東地方にかけての太平洋沿岸に押し寄せた大津波は、標高の低い平地につくられた住居や建物の多くを破壊した。住民の半数が命を落とした町もある。白砂青松の向こうの穏やかな海原と、そこに暮らす人々の生活は、一瞬にして破壊された。漁場がそのまま残っていても、漁業をするための船がない。養殖漁業のためのイカダなど道具もなく、住まいもない。漁業を成立させるための人的構成も破壊された。漁船建造のための借入金を残したままで次の漁船を造る体制と資金はない。
 働くことができる身体が助かっても、家や財産を全て奪われ、立ち上がるための力が不足しているのが、被災地の現実だ。だからこそ、国民同胞の支援が求められる。地方公共団体と政府機関は国の危機に対してあらゆる知恵と力を出さなければならないが、対応は未だ十分ではない。主要交通路の復旧は被災者救援とともに大事である。同時に、壊れた原子力発電所の運転停止による電力不足を補うための緊急対策を講じなくてはならない。できないと決めつけるのではなく、「必ずやり遂げる」という考えに立って策を講ずることである。

 効率追求だけの社会には危うさが伴う。東京電力福島第一原子力発電所の事故はそれを証明している。東電では、「効率化」の名の下に、経営者の利益を追求した経費削減がまかり通ってきた。また、すべて機械任せで行えるように、便利さ、省力化、効率化を追求し続けると、機器は次第に複雑化していく。しかし、それは壊れやすさにもつながりやすい。今回の事故のように、堅牢性、安全性が脅かされては意味がない。

 計測機器にも同様のことはいえる。精密さや使い勝手の良さだけが、求められる性能ではない。デジタル機器では小さな桁まで数字が表示されるが、最小桁の数字まで信頼してよいか、不安な計測機器もある。正確な数値を表示する頑丈な計測器こそが、良い計測器であるはずだ。
 計測器の利用者が、表示された数値を常に信頼し、安心して使用できる。そのような当たり前の状況が、実現されることを何よりも望む。

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