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日本計量新報 2011年5月15日 (2869号)

国破れて山河在り

東日本大震災の影響が、今後日本と世界にどのような影響を及ぼすのか計り知れない。
 東日本大地震により東北や関東の発電設備は大きな打撃を受けた。とりわけ東電の総発電量のかなりを供給していた福島第一原子力発電所の停止は、被災地以外へも大きな影響を与えている。今なお、東北や関東では電力が不足しており、ネオンサインや蛍光灯を落とした暗い家、暗い街が広がっている。
 関東と東北地方は、計画停電などによって工場の操業に支障をきたし、部品不足とあいまって生産が落ち込んでいる。自動車産業においては、トヨタ自動車などが宮城と岩手に関連会社である組み立て工場をもっていて、4月18日には稼働するようになったものの、部品不足などもあり稼働率は低い。ホンダは埼玉製作所で生産する小型車「フィットシャトル」を3月中旬に発売する予定であったが、電力不足を含む震災の影響で延期になった。津波被害で自家用車が使えなくなった地域では、「とにかく動けばいい」という軽自動車への需要で中古車価格が上昇している。
 今の日本社会と経済は、国内総生産(GDP)が少し増えた減ったとやきもきしている状況とは、別の次元にある。 二酸化炭素排出削減といった金科玉条も、原子力発電所事故とその後の放射能汚染という想像を絶する事態の前では影が薄くなっている状況にある。

 被災地におけるインフラなどの復旧状態をみると、東北方面の在来線は4月21日に、東北新幹線は4月29日に全線が復旧した。東北本線の復旧は貨物輸送という面においても意味が大きい。たとえばトヨタ自動車関連の工場の部品は東北本線を利用しているからだ。
 その一方で、三陸沿岸を走る鉄道は八戸方面のごく一部が動いているだけだ。気仙川沿いを走る陸前高田付近の線路は津波に流されている。JR山田線の宮古付近の鉄橋は壊れたままで、復旧の見通しはたたない。鉄道と併行運転するバスの便は、いち早く道路を復旧したことから何とか確保されている。三陸から東北地方にかけての数多くの地区では、人、物、お金の動きが未だに滞っている。
 電力は、壊れた送電設備の復旧が進んでおり、ガス供給施設の復旧も進んでいる。都市ガスを設備している被災地は仙台市などであり、他の地域はプロパンガスを利用しているので使用可能な家には何とか供給される。水が欲しい人のための水道と下水設備の復旧は地域によって異なる。ペットボトルによって水を利用するという文化ができているために、飲料水の確保はなんとかなっている。
 そのような状況の中、福島県三春町の樹齢千年の「三春滝桜」は震災から1カ月と4日ほどで開花し、1カ月と10日ほどで五分咲きとなり、1カ月と13日ほどで満開となった。福島の盆地では地震後1カ月と5日ほどで桜が咲き、桃の花が咲き、すっかり春になった。桜前線は仙台から北上して八戸に至り、弘前城の桜はいつものように咲き、やがて北海道に渡って函館の五稜郭の周辺にも春が至る。
 杜甫は「国破れて山河在り 城春にして草木深し 時に感じては花にも涙をそそぎ 別れを恨んで鳥にも心を驚かす」と五言律詩「春望」でうたった。今年の春は、例年になくこの詩句が心に沁みる。街は壊れてしまったが、山や川は変わらない。春が訪れて、草木が茂っている。瓦解した街や家を見ると悲しく、花を見ても涙がこぼれおちる。家族との別れはうらめしく、カモメや小鳥の鳴き声にも心を痛める。
 地震と津波災害によってトヨタ自動車などの生産が滞り、原発周辺の住民が何年もそこから離れて避難するという事態、そして魚を捕りたくても船がない、働きたくても働く場がない、住む家もない、家族が津波で命を落として生きる希望が乏しいという事態は、国難そのものである。
 国の危機に直面した我々ができることは何であろうか。元気に働くことができる人はもっと元気に働いて、知恵をだす場がある人はもっと知恵をだし、人を助ける気持ちと行動力がある人は大いに人を助けたらいい。被災者と気持ちを同じにするだけではなしに、自分ができることを精一杯しよう。

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