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日本計量新報 2011年5月29日 (2871号)

最悪の事態に対応する筋書きをつくれ

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震発生から、既に2カ月以上が経過している。ちょうど2カ月目にあたる日に、津波で甚大な被害を受けた地区の首長二人が政府へのやるせない気持ちを口にした。宮城県南三陸町の佐藤仁町長は、以下のように述べた。現金がなく日々の生活に困っている人もいる。義援金を早く配ってほしい。震災直後、国や国会議員は何でもやると大風呂敷を広げた。日にちが経ち、その感覚が薄れることが心配だ。財源の裏付けのある復興計画を早く示してほしい。
 釜石市の野田武則市長は、以下のように述べた。政府の対応は後手後手で遅い。市町村や県がやる前提だった瓦礫撤去を国が直接やると言い出したり、公有地だった仮設住宅の建設場所も民有地が認められたり。高台移転など理想は誰でもしゃべれるが、具体的な仕組みを示してもらわないと、被災者と向き合っている我々が一番困る。釜石だけが復興しても三陸全体が復興しなければ復興とは言えない。そのための改革を国の総力を挙げてやって欲しい。
 両首長の意見はもっともである。さらに今後の町づくりについて、佐藤仁町長は、「堤防などの構造物では人の命は守れない。どこにいても高台に避難できることが町づくりの基本になる」と述べた。堤防で津波を抑えるという構想は、国が進めてきたことである。自然に対して甘い想定、間違った考えをもとにして政策を実行してきた結果が、三陸地方の甚大な津波被害につながったのである。

 国策による被害ということでは、原子力発電所の事故についても同様である。防潮堤によって設備を守ることができると考えて、海沿いに原子力発電所を建設してきた。実際には、津波で炉心冷却のための緊急用の発電設備が機能を失い、深刻な放射線被害を引きおこし今も続いている。建家横と屋上に設置された冷却用の発電設備は二重ではあっても、安全構造にはなっていなかった。一つを遠く離れた山の上に設置しておけば、あるいは風力などの発電方式を併用していれば、フェイルセーフがなしえたことであろう。
 原子力発電所は、政治の原子力発電推進の前提のもと、この規格を満足すれば安全であるという勝手な決めごとで、設備が建設された。原子力の学者や研究者あるいは大学教員は、地球物理学や地震関連の知識には乏しい。地震関係の大学教員が原発建設地に活断層があることを知っていながら、「ない」と重要な審議会で偽証していたことも、数年前のNHKラジオ生放送で明らかになっている。事実に反して国や政府に都合のよいことを述べる人々を多く抱えた議会で結論を得て推進されてきた原子力政策が、今回の震災を期に少しずつ是正されようとしている。
 原子力発電設備に取り付けられた温度計や水位を測定する圧力計は故障しないと誰が決めたのであろう。一定の強度を超えた振動やその他の原因があれば、計量器は故障する。計器が故障するような事態が生じた場合には、発電を直ちに確実に停止できる措置を講じておくのが当たり前である。当たり前のことを当たり前にできない構造になっていた結果が、東京電力福島第一原子力発電所の事故である。

 一方、非常事態に際して被害を最小限に抑えるために人々がとるべき行動についても、課題が浮き彫りとなった。
 津波に関して言えば、予報の出し方の是非も検証しなければならない。今回の震災では、気象庁が速報性を重視して地震直後に出した初期段階の津波予想値が、一人歩きして避難を妨げたという側面がある。停電となり、情報が遮断され、更新された津波予想値が伝わらなかったのが大きな要因であるが、初期予測が実態とあまりに違っていたことにも問題がある。
 住民に情報を提供する自治体にしても、対応の違いが地区の被害に大きな差を生んだ。津波予想の具体的な数値を伝えた地区の方が、伝えなかった地区より死傷者数が膨大であった。
 報道によると、14時46分におきた地震に対して気象庁は14時49分に大津波警報を発令し、その1分後に岩手県には高さ3メートルの津波がくると予測した。釜石市は、14時50分と同52分に、高い所で3メートル程度の津波が予想されため、海岸付近の方は直ちに近くの高台か避難場所に避難するように、と市内96カ所のスピーカーで放送した。その後、気象庁は15時14分に津波予測を6メートル、同31分に10メートル以上と切り替えたが、市は停電していたために情報を住民に伝えることができなかった。住民は「津波は3メートル」と思いこみ、高台への避難をせず津波に飲み込まれた。
 一方、岩手県大船渡市では気象庁の津波予想値を伝えず、とにかく高台への避難を徹底的に呼びかけ功を奏した。同市の死者行方不明者の数は、釜石市に比べて三分の一ほどであった。

 計器は物事の状態を把握したり知らせる機械である。計器が動かない、何らかの原因で機能しないという状態は最悪の事態と考えて、それに対応する筋書きにしておくことである。原発の事故対応措置は万全でなければならないし、停電などによる津波予報といった情報伝達切断への対応、対策を講じなくてはならない。

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