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日本計量新報 2011年6月12日 (2873号)

計量法の運営機関の意識が低下すると計量士制度が崩壊する

計量士は、計量計測に関係する専門知識を備えていると国に認定登録されて、特別な計量事務および作業を行うことが認められている国家資格保持者である。計量士になるには、経済産業省が実施する計量士国家試験に合格して一定の実務経験をもつか、(独)産業技術総合研究所計量研修センターの課程を修了し、実務経験その他の条件を満たして計量行政審議会の認定を得る必要がある。計量士には、濃度、騒音・振動に関わる環境計量士と、それ以外の計量計測に関わる一般計量士がある。ここでは特に一般計量士についてふれる。
 一般計量士の国家試験は、受験資格に学歴は問われないが、試験では理工系の大学卒業程度の数学と物理の知識を求められるため、文系の人には試練である。資格を取得した一般計量士が関わる法的業務としては、計量法で規定された役所(あるいは指定定期検査機関)が実施するハカリの定期検査の代行や、適正計量管理事業所制度で定められた適正計量管理事業所での、特定計量器のうち特にハカリ(質量計)の定期検査や計量管理がある。
 容易には取得できない一般計量士の資格であるが、それに見合う仕事があるかというと、収入の面では魅力がないというのが通り相場である。

 しかしながら、計量法に基づく適正計量管理事業所制度と計量士制度が担う社会的役割は大きい。制度の誕生の背景には、国が発展のために重要性を認識して計量計測を推進してきた経緯があり、品質管理や計量管理を実現していくという高邁な思想がある。
 戦後の日本に、経済復興や産業活動の推進のための技術要素として、アメリカから品質管理が導入された。品質を管理するため計量と計測が必要となった。計量管理あるいは計測管理が品質管理と表裏一体になって、品質管理理論が形成され、同時に計量管理理論が成立した。戦後間もないころにできた(社)計量管理協会は、ほとんどの有名企業を会員として、計量を品質に生かし、よい製品をつくることに絶大な貢献をしてきた。戦後の計量法の立案者は、計量管理が日本を発展させ企業の繁栄をもたらすという強い信念を計量法に盛り込むために苦心惨憺したが、取引と証明に関する計量の規制法としての性質が基本になっている計量法では、計量管理や品質管理を企業や社会に強制的に求めることができず、特定計量器の適正な管理を実施する事業所の求めに応じて、それを認定して定期検査を免除する方式にした。
 現代はサービス産業が大きく発展しているが、かつては製造業や流通業といった分野が産業の推進役を担っていた。こうした分野の事業所が適正計量管理事業所(旧計量法の時代は「計量器使用事業場」)の指定を受けて、計量管理の一環としてハカリなどの特定計量器の管理を実施して、定期検査が免除されてきた。適正計量管理事業所の指定を受けるのは、定期検査の免除が目的ではなく、事業所が計量士をおいて自発的に品質管理、計量管理を実施していることの証の一つとしてハカリなどの特定計量器の管理もしているということであった。
 自分でできるハカリの管理を、行政機関や指定定期検査機関に実施させるような企業は優良企業とはいえない。技術的な面からも、ハカリの管理を役所任せにしていては計量管理も品質管理も成り立たない。ハカリの法的な定期検査は2年に1度で、基準器との器差は、出荷前に行う検定の半分の精密さを実現していればよい。役所の検査に頼る事業所の多くは、2年に1度しかハカリが正常に機能しているかどうかを判別しないことになる。その間は、ハカリの計量値が多すぎたり少なすぎたりしていても分からない。誤った計量が消費者と社会に迷惑をかけていることもある。今の日本の企業を観察すると、儲け本位な輩が幅をきかせているように感じる。

 計量法は適正計量管理事業所制度と計量士制度を一体として組み立てており、この二つの制度を通じて計量管理を実現し、品質管理の基(もとい)とし、産業と経済と文化の発展、社会貢献に寄与することを隠れた意志としている。適正計量管理事業所の指定を受けることは、社会貢献につながるものである。計量士は自らの資格に誇りを持ち、計量管理と品質管理に努めなければならない。同時に行政や計量法の運営機関も適正計量管理事業所制度と計量士制度の社会的役割を向上させるために大きな努力をしなければならない。国の、特に計量法の運営機関が制度に対する理解を欠いた状態が続くと、自らが生み出した計量士を見殺しにし、適正計量管理事業所制度を崩壊させる。

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