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日本計量新報 2012年2月26日 (2906号)

計量救国思想をかつての計量行政の従事者たちはもっていた

日本の計量行政は、「計量法の規定に基いてゆるぎない状態で執行されている」と、経済産業省当局者の公式見解として表明されている。確かに、法律や組織体系といった表向きの基盤は、しっかりしているように見える。しかしその一方で、多くの関係者が地方公共団体におけるハカリの定期検査の実施率が実質は50%に達していないという思いを抱く現状があり、両者の間には、大きな矛盾がある。
 県の計量行政機関の職員が他の業務と兼務しながら1人、2人という状態で、ハカリの検定の実務の実際を、指定定期検査機関の職員が実施しているという計量法の規定に抵触する状況をどのように捉えたらよいのか。計量行政職員が、計量法と計量行政の内容と実務を知らないような状態は正常であるのか。行政の広域化ということで、単一の県で実施しきれない業務を近隣の県に協力を求めて実施することもありうるだろうが、そのようなことができるとなると、計量行政事務をいま以上に放棄する傾向が増長されるという事態が進行することになりかねない。
 県の計量行政事務がおろそかになる原因は、県が計量行政事務費用を確保しないことにある。10人の人員で実施できる計量行政事務を、1人や2人で実施することになるから、やるべき業務から目を逸らしてやらないということが起こる。ハカリの定期検査の実施がこの典型であり、ほかにも類することがたくさんある。計量行政事務に必要な費用を確保しないということは、計量法に定められた業務を実施しないという意思の現れで、計量法を犯すという精神ともとれる。

 
  日本の行政は多岐に亘る。他分野の行政をみると、極端とも見えるほど強行に業務実行に励んでいるものもある。例えば環境省が所管する動物の繁殖とその販売に関する動物愛護管理法では、動物を繁殖し販売する者は、業として動物取扱業に該当するため登録を義務づけている。登録時は書類審査と係の施設検査を受ける。その後も、1年に1回の講習と5年ごとに登録更新が必要である。一般人が、飼い犬の産んだ子犬をたった一度でも有償で誰かに譲ろうとする場合も、畜犬商に対する法規制の対象になってしまう。環境省所轄の行政責任者は、例外を認めないばかりか迷いを微塵も見せずにこの業務を実施している。一般人には理解しがたい信念を持っているようだ。
 計量行政担当者にも、かつては計量こそが国政の要であるという計量救国的な思想があり、この思想は計量教習などをも通じて醸成された。
 今の計量行政組織や計量行政担当者たちに、環境省の業務担当者達のような有無を言わせぬ信念が少しあれば、計量行政事務の実施半分以下の状況は生まれなかったことであろう。人の意識は行動に反映し、計量行政予算の確保に影響する。計量行政などやらなくてもいいや、という意識があちこちの地方公共団体に見えている昨今である。極端な例えとは認識しつつも、あえて環境省のような行政姿勢を少しは真似たらどうであろうかと提言したくなるのである。

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