計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2013年4月  7日(2959号)  14日(2960号)  21日(2961号)  28日(2962号)
社説TOP

日本計量新報 2013年4月28日 (2962号)

多摩川土手の餅草を手際よく摘む老婆の本能的生産性に学べ

造れば売れる時代がうらやましいと思うのは、造れば売れた時代を知っている人である。物がない、ということは需要が生産を上回っている状態のことである。ある地方の計量器販売を中心とする事業者は、東京で人とのコネがあるために出かければ担げるだけの計量器を仕入れて帰るとたちどころに売れるという面白い状態が続いていて、この後にダム建設のための計測機器の特需や山岳地帯の気象観測によって経営の基礎を築いた。農作物の収穫期には、ハカリ業者の工場の前に農家の人などの行列ができるほどの状態であった。
 需要と供給ということを単純に観察すると今の時代は供給過剰時代にみえる。製品の性能は向上しているが、価格の低下が続くのはその背景に企業間競争があり、同時に生産性の向上があるからだ。普通程度の生産性向上では競争に勝ちきることは容易でないから特段の生産性向上が求められ、また性能向上のための画期的技術革新をなしとげることが必要だ。新市場を切り開いて獲得する画期の製品開発は需要獲得の王道ではあっても、大成功に結び付くのは時々のことでしかない。
 同じモノを要領よく大量に造るための技術は社内にあるよりもさまざまな形で社外にある状態が普通なので、こうした社外の技術を用いて製造設備を増設することが広くおこなわれている。設備増設に蓄積した資金を使う場合とコストのかかった費用を用いる場合とがあり、コストのかかった費用で設備投資するには相当の見通しと覚悟がいる。それでもこうした設備革新や増産体制を整備しないと企業は縮小方向に動いてしまう。上手に設備を整えてよりよい製品を造りだすのが企業発展の要諦であるようだ。
 日本の製造業における若き技術者のその力は世界と比べていかほどであろうか。日本のマクロ的な労働生産性は80年代の平均伸び率が3.4%であったものが、90年代に2.2%へと、1.2%ポイントの低下を示している。2000年以降も平均伸び率は2.4%程度で推移している。これがOECDのデータである。日本の場合にはサービス部門の経済に占める比率が高まっており、この分野は製造業に比べると一般的に生産性が低いので、日本全体としてはサービス産業の生産性を上げることが課題になる。
 目的にあわせて少ない入力によって大きな出力を得ることが生産性である。多摩川を渡った川崎市の農家をしていた貸家屋業のお婆さんは土手のヨモギを餅草と呼んで5尺ほどに伸びたヨモギを摘むが、手際の良さで敵う若者はいない。手の早さが生産性であり、魚を上手に獲るのが生産性であり、作付けした農産物をしっかり収穫するのが生産性であることを身体で知っている人は、身体を使うのを惜しまないように脳が作用する。文学的にものを考えたり、必要のないところにこだわって作業が進まない状態の若者が日本には増えているのは、物の生産と切り離されて生活してきたことによると思われる。生産性の観点が欠落した仕事の遂行は遊びに類することであることを知らない者は、自分のみならず周りをも不幸にする。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次社説TOP
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.