計量新報記事計量計測データバンク会社概要出版図書案内
2013年12月  1日(2990号)  8日(2991号)  15日(2992号)
社説TOP

日本計量新報 2013年12月1日 (2990号)

危ない橋をわたらせる地方公共団体が実施する計量行政

高速道路の頭上を横切るいくつもの陸橋がある。高速道路ができる以前にそこに農道や生活道路があったから、その道路を使う権利があるということで、交渉のすえ高速道路の頭上にハシゴのような高架ができたと推察される。NHKの特別番組で橋梁が老朽化して危険な状況にあることが報道された。山梨県を走る中央高速道路の笹子トンネル上り車線の天井板落下事故の原因は何か。天井のコンクリートに打ち込んだボルトが腐ったり、ほかの理由で固定されない状態にあったことだ。これの監視はされていなかったといってよい。同じ方式の天井板が中央道ほか多くのトンネルから撤去された。もともと天井から板を吊しているあの方式は意味がなかったという疑念が強い。誰かが考えてそれを押し通すとそれがダメなことであっても実行され普及する。原子力発電所の地震と津波への実際上の無対策と同じことがここにもあった。
 浜松市の職員が安全と決めた多くの橋は日本土木学会が推薦する人物が点検すると致命的な傷みが進行していた。いつ崩落するかわからない危険状態であった。ほかの自治体の橋にも同じような状況があり、こうした交通インフラの老朽化とそれへの対応は難問である。自治体が使えるお金はそれほど増えないにもかかわらず道路をつくったり、橋を架けたり、公共施設をつくったりすることで、選挙民である住民の要求を充足させ、そのことで自治体行政はよくやっているとしてきた。首長や議員は住民要求をかかげることで公職を得てきた。膨らみにふくらんだ地方公共団体の行政費用は、後の始末がつかないでいる。同じことは国に起こっており、その後始末を消費税だけではつけることができない深刻さがある。
 橋梁の検査を実施する主体の浜松市は職員が直接に検査するのではなく業者に委託してやっていた。さらにある程度の専門家である職員の能力も日本土木学会が推薦した人物に比べてはるかに劣り、素人と同じ状態であった。
 地方公共団体が実施する計量行政のうちの重要な業務であるハカリの定期検査の実施の状況を、その実施率はせいぜい5割であると強く主張する現場におもむいて代検をする計量士が少なくない。地方公共団体のなかには計量法をよく知っていない、計量器の検定と検査の実務に通じていない、所轄地域の計量の安全を確保するという意識を持たないところがある。行政を実施するに足る知識がその地方公共団体にない、と激しい言葉を投げることに不自然さはない。知らなければ気にならない、知らなければやらない、知らなければそれが悪いことだとは思わない。ハカリの定期検査を実施することは役所の責任であるにもかかわらず、それをしないのは役所による計量法違反である。危ない橋を放置する公共団体の行政機能と同じ脆さが計量行政に露呈している。橋を直すには大きなお金が要る。ハカリの定期検査の完全実施にはさほど大きなお金は要らないし、これまでは今よりずっとましな状況にあった。生活のための元になる取引の分野を受け持つハカリという計量器とその検査の完全実施に熱意をもって臨むことは、計量行政を担当する職員のまっとうな姿勢である。

※日本計量新報の購読、見本誌の請求はこちら


記事目次社説TOP
HOME
Copyright (C)2006 株式会社日本計量新報社. All rights reserved.