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日本計量新報 2015年8月2日 (3067号)

計量行政をサボり予算を削るのは蛸が自らの足を食むことに似ている

新幹線に乗っても高速バスに乗ってもその大もとのエネルギー源は石油である。あるいは原子力発電があるからウランだという人がいるかもしれないが、いま日本では原子力発電設備は一基も動いていない。電気は水力発電と火力発電そして細々と太陽光発電でつくられている。風力発電他を指摘する人もいることだろう。発電された電気によって新幹線は動いていて、気動車は重油によって機関を動かしている。バスも自家用車も石油によって内燃機関を動かしている。
 太陽光発電によって生み出された電気の買い取りのしくみができたために、山林が伐採されて太陽光パネルが次々に設置されている。増えている休耕田に太陽光パネルが敷かれれば発電量は大きくなる。一般家屋の屋根などに壊れなくて質の良い太陽光パネルができて、これと小型の燃料電池などの発電を組み合わせると、電力会社からの送電が要らなくなる。山林に散在する住居がこのしくみで電力の時給をすると好都合だ。それよりも山のなかの一軒家に電力を供給し、山村の住居が人からまりになることで交通の足として道路をつくり維持することを止めることができ、人が生きていくための総費用を減らせる。
 江戸期までの日本は木材を燃料として使ってきた。住居も木材でつくられた。木材を使いすぎると山が荒れ、樹木が育たなくなる。大津市の田上山(たなかみやま)は1908(明治41)年には禿げ山だった。砂防工事と植林によって森林が復元している。兵庫県の六甲山も同じだ。四大文明が栄えたその地は現在はすべて禿げ山になった。森林を伐採して煉瓦(れんが)を焼いて万里の長城がつくられた。黄河上流の樹木は消えて砂漠になった。日本を襲う黄砂はそこからやってくる。黄砂は春だけではなく条件によって年中飛んでくる。木材を燃料に使ったことによって引き起こされたことだ。
 中央アジア南西部に位置する共和制国家トルクメニスタンでは、1971年以来地下には豊富な天然ガス火災が発生して今でも燃え続けている。その火災現場の直径100mほど。ガス採掘現場が落盤し有毒ガスが放出したために火をつけて対応して現在に至っている。アメリカ合衆国ペンシルベニア州コロンビア郡の町。19世紀後半から石炭鉱業によって栄えたが、1962年に発生した坑内火災の影響により連邦政府による退去勧告が出され、住民が町を去った結果ゴーストタウンと化した。この火災は今もなお鎮火されずに燃え続けている。
 縄文時代には温暖期と寒冷期が繰り返した。温暖期には海面が5mほど上がった。新潟市も津市も和歌山市も徳島市も岡山市も海面下。大阪市などもそうであり、東京の中央区、港区、千代田区なども同じ。つくば市の近くまで海がきていて、荒川が流れる埼玉の奥深くまでそうであった。南太平洋の島国ツバルは当時は海の底だから人は住んでいなかった。縄文期(縄文時代)は約1万6500年前(紀元前145世紀)から約3000年前(紀元前10世紀)のことだ。縄文の温暖期、寒冷期のこと、温暖期の縄文海進の気象現象の解き明かしがないと、地球が温暖になっていることと化石燃料の使用との因果関係を単一に語ることはできない。
 木を燃やし、石炭を燃やし、石油を燃やし、ウランを燃やすこと、そして太陽光をエネルギーに変換することは文明社会を構成する基礎となっている。樹木、石炭、石油などを使う時代の文明に連動して産業があり、人の生活がある。社会基盤のことをインフラストラクチャー(infrastructure)と表現する。このインフラストラクチャーという英語の意味は人には見えない構造物だ。意識を見えるように設定したときだけに見える。偶然に誰にでも見えることがあり、それはその社会基盤が壊れたときである。
 とんでもない表示をする計量器による誤った計量と袋詰めなどがそれだ。適正な計量の実施の確保のための計量制度がそれであり、これを「安全と安心」と表現することがやたらに流行っている。計量制度は普段は普通の人には目にも見えず意識もされない社会基盤であり、インフラストラクチャーである。計量制度は多くの場合、知事にも、議員にも、公務員にも見えないし、意識されない。だから計量行政に予算をつけて運用することが疎まれ、身勝手にこれを削りたくなる。タコ(蛸)が飢えて自らの足を食むことに似ている。

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