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日本計量新報 2015年8月30日 (3070号)

人の身体を診ることは計測することだ

大相撲で敵なしの強さで優勝をつづけてきた白鳳の体力が衰えているとNHKテレビで解説の舞の海が語っていた。横綱貴乃花の兄弟弟子の怪力貴ノ浪こと浪岡貞博氏は、2015年6月20日に43歳で心臓麻痺で死去した。2004年夏場所途中の引退は心臓疾患によるものでその後も心臓疾患がつづいていた。巨人大鵬卵焼きの大鵬こと納谷幸喜氏は、2013年1月19日に心室頻拍のため72歳で死去した。1977年に脳梗塞によって倒れ、左半身麻痺などその後遺症が残ったが、不屈の精神でリハビリをして回復していた。
 巨人の長嶋茂雄氏は2004年3月に脳梗塞を発症して自宅で倒れ、発見が遅れたことによるのか2015年現在でも右半身に麻痺が残っているものの、リハビリによって自分で歩けるまで回復している。王貞治氏は2006年7月に早期胃ガンのため胃の全摘手術をしている。憎らしいほどに負けなかった大鵬、巨人軍入団初年に見事な活躍をした長嶋茂雄(踊るようにして駈けるそのバネの効いた躍動感を超える選手はその後に現れていない)、テレビにファンを釘付けにした一本足打法によるホームランの王貞治、この国民栄誉賞を受けた国技の大相撲とプロ野球選手は強靱な体力とは別ものの病気と戦ってきた。
 NHKラジオでは大腸と膀胱と食道に順にできた癌の摘出手術をしてそれぞれ5年を経過して普通の生活を元気にしていることを手紙で伝えていた。直腸癌は早期であれば内視鏡手術で9割は治る。癌の程度と発生部位によって再発と転移に差はあるが、癌は早期発見するように人は努めることだ。脳血管障害としての脳梗塞は60歳になる人のほとんどに発生している。MRIの画像をみると脳のなかにポツポツと脳梗塞の痕がある。発生部位によっては何だか頭が重い、目眩がする、あるいは1日ほどの物忘れ程度ですむ。運が悪いと納谷幸喜氏や長嶋茂雄氏のように後遺症が残る。どんなに元気にしていても脳幹の血管が破裂して溢血(いっけつ)をおこすと命はない。貴ノ浪こと浪岡貞博氏におきた心臓麻痺は電気ショックによってすぐに手当てしないと心臓はとまる。明日あるいは次の1時間後に死ぬことを考えて人は生きていないから困る。
 夢のような話で万能細胞ができればどのような病気も治すことができるという単純な考えによってスタップ細胞が持ち出された。iPS細胞にしても、それが有効であることは事実ではあっても、あらゆる病気、あらゆる状況の罹患者に適用することはできない。病気の人に希望を与え、一定の条件のもとで治療し治癒させることはできる。こうした夢を追うことは良いことだとしても、健康維持のためは定期健康診断を受診すること、癌などを早期に発見して治療するということになる。肥満がもたらす糖尿病ほかのことへもまともな対応をすることが大事である。そうはいってもペニシリンなどの抗生物質の発見と治療薬としての開発は人の命を救う。人の寿命が伸びたのは衛生と栄養の改善によるものらしいから、みだりに出現する論理に惑わされないことが肝要だ。
 人の身体を診ることは、人の身体を見ることである。見ることは知ることであり、知ることには計測がかかわる。医療現場の機器はすべて計測機器だと思ってよい。

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