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日本計量新報 2015年9月13日 (3072号)

web検索では定説と俗説の真贋が判別しにくい

知識とさまざまな情報がwebの世界で動くようになった。調べものをするのにグーグルの検索用の窓に言葉を入れる。その言葉はウィキペディアのページを探し出す。そしてウィキペディアの解説を読む。この操作を携帯電話と簡便なパソコンの機能を備えたスマホでする。これがいまの人々の知識と情報に触れる方法になっている。知識と情報はそこにあり、これを読むことですますことができる。
 世のなかの表向きの知識や情報はそうした行動によって入手できる。それではもっと深い、或いは隠れがちな情報はどうであろう。隠れた情報は隠れたままでありインターネットに出てくることがない。深い知識も同じような状況である。英文和訳などの虎の巻が専門書店に置いてあって、英文を読まずに虎の巻を読んですますということがおこなわれている。これでは英語を学習することにはならない。グーグルとウィキペディアそしてスマホの利用による知識の習得はこのことに似ている。人々は知識を簡便な方法で得ることによって、物事を知ったように錯覚しているのではないか。
 蝉のことをweb検索すると、地上に出てきてからの蝉の命は1週間ほどという思いこみの文章で埋め尽くされている。夏休み俳句のラジオ番組で、小学生が蝉の命が1週間という内容の句を詠み、選者がそれを信じていた。NHKの夏休み子ども電話相談室では、蝉の命は1カ月ほどであることを回答者が昨年述べていたのであるが、こうした知識は普及していない。ウィキペディアでは、「成虫期間は1〜2週間ほどと言われていたが、これは成虫の飼育が困難ですぐ死んでしまうことからきた俗説で、野外では1カ月ほどともいわれている」と説明している。定説と俗説、そして情報の真贋(しんがん)は、web検索では判別しにくい。
 「理科離れ」という言葉がどこから出てきているのか知らない。理科離れは学校の教員にあり、小学校教員の理科知識の乏しさは惨憺たる状態である。子の親の理科知識も似たような状況であり、動く物にはエネルギーがあって質量が大きいほどにそれが大きいことを体感としても知らない。スピーカーは、アンプからの電気信号を電線によってスピーカーのコイルに届け、磁石との反応によって発生した振動をコーン紙が音に変えることを知らない人がいるから、電線を被覆のままでスピーカー端子につなぐ。こういう人が英語の試験で高得点をあげて有名私大に入学する。この人が親になって子に伝える理科知識がどの程度か察しはつく。
 計量協会などが小学校に出向いて出前計量教室などでハカリや温度計をつくる実演をしている。このとき小学生の目は輝いている。夏休みの「自由研究」という宿題がどの程度意義があるのか知らない。上のような親と教員の理科知識で育まれた小学生にはこの宿題は苦痛であることが想像できる。子供たちを野に放ち勝手にさせておくことが理科知識の習得には役立つ。野には虫がいて刺されれば痛いか痒(かゆ)いかすることを経験させればいい。草には露があり、草は地面から生えていることを直に感じることがないのが今の子供たちであり、教員であり親である。空疎な理屈ばかりの世のなかになってはいないか。

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