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日本計量新報 2017年1月1日 (3132号)

市場という言葉とは無縁のハカリの定期検査や検定の業務

計量法が「器差検定のみをおこなう指定検定機関制度」を新設して、地方公共団体の計量行政機関が実施している特定計量器の検定を民間機関が実施できるようにする。現在想定されているのは特定計量器に指定されているハカリであり、ハカリは定期検査を計量士が代行できることから、ハカリの検定の代行制度と解釈できる。

基本的に器差のみとは器差だけということであり、その検査方法はハカリの定期検査と同等ということになる。器差検査という検定をするのは「計量士であることが適当である」とする。  器差検定のみをする指定検定機関を指定するのは、地方公共団体の長ではなく経済産業大臣であることから、指定を受けた検定機関は複数の都道府県で検定業務ができることが確認されている。

このような制度が新設されるのは、幾つかの地方公共団体で計量行政機関が検定要員を確保できなくなっていて、その補いとして民間機関に特定計量器の検定を実施しているという計量法では違法な状況を救う手だてでもあるようだ。同じような状況に推移していく地方公共団体が少なくないと想定されている。それを補うために民間事業者を器差検定のみの指定検定機関にして業務をおこなわせて計量行政における特定計量器の検定需要へ対処しようという構想であり、そのためのしくみが器差のみ検定制度である。

器差検定のみを実施する指定検定機関の事業の収支は成り立つか。ハカリの定期検査は1967(昭和42)年までは無料であった。それが有料になって手数料を地方公共団体が条例で定めるようになっているが、その料金は通常算定される費用に対する対価として考えれば10分の1、あるいは100分の1程度である。とても費用に見合う検査手数料にはなっていない。ならば費用相当の手数料にすれば良いではないかと単純に論理立ててもそれは実際にはできない。現在の手数料が10倍になり100倍になるということだと条例改正が議会を通過しない。また10倍、100倍になった手数料制度のもとではハカリの定期検査実施率は下がることが推定される。手数料の歴史の経緯がここにはある。

民間事業者が指定を受ける器差検定のみの指定検定機関は、ハカリの定期検査手数料を土台にしてできあがっている指定定期検査機関制度によって指定を受けた事業者が業務が採算にのらずに、赤字を自己資金で補填している実情に照らすと、同じような状態に陥ることは必至である。計量協会という民間事業者が指定定期検査機関の指定を受けて業務を運営していて累計で1億円を超える損失を会員の会費で埋め合わせしている事例がある。

ハカリの定期検査でもハカリの器差検定のみでも、指定を受けてそれを実施する事業者ができうる通常の業務を実施すれば採算点に乗るというしくみがあってこそ、その制度が成り立つ。ハカリの定期検査でもハカリの器差検定のみでも、それを実施して得ることができる手数料では全く採算に乗らない。検査や検定をする地方公共団体の職員の給与、建物や設備費などをすべて地方公共団体が賄った上での制度である。この<RUBY CHAR="","まかな">いを地方公共団体が不当にサボることが続けられているために、指定定期検査機関の運営が崩壊する危機を迎えている。

経済産業省を含めて国も地方公共団体もその業務を民間におこなわせることをしている。電力、都市ガス、熱供給、水道等の公益事業などの許認可規制を緩和しているのもその一環である。電力、都市ガス、熱供給事業では許認可規制がその市場への参入障壁となっているから、この障壁をなくすか低くすることがおこなわれている。

ハカリの定期検査事業、ハカリの器差検定のみの事業は市場といえる内容のものではない。計量士によるハカリの代検査を事業として成り立たせている者もその事例も多くはない。ハカリの器差検定のみの事業などは市場などと語ることは<RUBY CHAR="","はばか">はばかられる。検査需要とか検定需要という言い方をするが、それは検査や検定への求めであり、市場があってそこに需要が成立しているのではない。

ハカリの器差検定のみの事業ということでそこに市場があって需要があるから、民間事業者の参入が期待され、その参入が望まれるなどと受け取ってはならない。そこにあるのは人件費と建物と設備費をすべて用意したうえでの不採算の奉仕事業である。どんなことをしても採算に乗らないのがハカリの指定定期検査機関や指定検定機関による検査や検定の業務である。ハカリの指定定期検査機関や指定検定機関による検査や検定の業務が採算に乗らずに継続困難な状況にあるか、そのような状態に陥ることが確実であればその業務は行政を補完するものなどには成り得ない。実態は地方公共団体が計量行政を運営するための予算を欠いて、欠けた分を計量協会の会員の会費で穴埋めしているということだ。

地方公共団体の検定業務にはタクシーメーターなどがあり、この分野も役所が人を省くとなけなしに、また違法状態の体をなして民間事業者の1つである計量協会が実施することになりそうだ。

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