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日本計量新報 2017年3月19日 (3142号) |
下請けに出した業務内容を役所は忘れて責任を放棄する街をあるいていると見えることがある。人口1万人の街には婦人向けの大きな用品店のチェーン店がある。人口が1万人あれば出店することを決めているホームセンターがある。コンビニエンス・ストアとチェーン・レストランとチェーン薬局の出店の勢いは衰えない。スーパー・マーケットの勢いは陰っているが百貨店の売り上げは増えない。 日本の経済を簡単に解き明かすとGDPも個人消費も一定でありサービス業の店舗面積が増えているということである。街の小さな洋品店は開店休業、街の金物屋と八百屋と肉屋と薬屋は店仕舞い、地方都市の老舗百貨店は廃業というのが、GDPも個人消費も一定のもとで全国チェーン店の展開がある経済である。回転寿司のチェーン店が松本市で賑わうなか、昔からある角の寿司屋は先が危ぶまれる。佐世保のそうした寿司屋の売り上げは一昔の三分の一である。青森駅前には全国展開のサラリーマン向け酒場が並ぶ。 そうした店舗で働くのは時間勤務の高校生であり支払われる給与すなわち人件費は驚くほどに低く抑えられる。日本語を覚え少しの訓練を受けた中国人やアジア人が日本人と同じように働いているので、日本人も賃金が上がる要素が削られる。 長野県の原村には村営の八ヶ岳美術館が1980年(昭和55年)に開館して今日に至っているが、現在の八ヶ岳美術館は一般財団法人原村振興公社が指定管理者となって運営されている。八王子の駅前ビルの地下駐車場も近くのビルの管理会社が指定管理者として運営している。相模原市の障害者施設である神奈川県津久井やまゆり園の場合は県が直営しているのではない。神奈川県が「津久井やまゆり園指定管理者」を募集して、ある団体を指定している。津久井やまゆり園の入園定員は160名でうち短期入所者が10名であるが、指定管理者の某社会福祉法人に雇われていた従業員が19名を殺害するという事件が起こった。 容疑者は法的責任能力があると認定された。テレビに映る容疑者の様子と衆議院議長あての「殺人予告」などのことから常人でないことは明らかだ。そのような人物が指定管理者の社会福祉法人に雇われていたのである。介護度合いが高い障害者に対する介護の状況や介護労働の実態などは、外部からはなかなかうかがい知ることができない。介護労働の過酷さは想像できるが、この施設における介護のしくみとしての充足体制などはどうだったのであろうか。行政はそのような業務を外部に委託するようになった。そうすると大事なことが見えないし意識もしないから自己の責任でありながら人ごとのように考える。相模原福祉施設19人殺害事件と上のこととが関係しないとはいえない。 指定管理者制度によって指定を受けて施設を管理したり福祉の業務をおこなう現場労働の劣悪さと処遇の悪さをどのように表現すればよいだろう。公務員の身分で従事していたころの状態に対して、同様の仕事でありながら給与は半分程度であり、年季を積んでも栄進の道はほとんどないという場合が、多く見受けられる。第一に指定管理者となってそこで働く人々に旧来その施設にあった職務上の権限が奪われることである。このことは働く意欲を削ぐように作用する。そういう状況下でも意欲を持って働けと求めることは困難であり、困難な状況の中でも多くの従業員は頑張っているが、おざなりで投げやりな態度で業務に従事する従業員もうまれてくる。 計量法の施行にからむ指定定期検査機関に指定されている民間団体に、上に事例を引いたような都道府県が業務を委託する指定管理者と同じことが起こってはいないか。ハカリの定期検査を実施するのに不足な委託料が算定されて、これが年々減少する。指定定期検査機関に指定されている民間機関では累積すると1億円を下らない費用の持ちだしてになっているところもある。 ハカリの定期検査をするのは地方公共団体の責務である。地方公共団体は指定定期検査機関制度の仕組みによってハカリの定期検査を計量協会などに委託してしまうと、自らの責務を忘れてしまう。自分で検査しないから検査があることを忘れる。検査に必要な人と費用のことを忘れる。忘れた後に起こることは実務を遂行するのに不足する委託費が常態になる。赤字会計になった指定定期検査機関の運営費を計量協会は会員が納めた会費を充当して補いをつける。普通のハカリを1台検査する検査手数料は千円ほどであるような手数料条例になっていて、これを大幅に値上げすることは歴史の経緯と議会の関係で実際にはできない。ハカリの定期検査制度における指定管理者制度ともいえる指定定期検査機関制度の運営はそのようになっている。同じことが自動ハカリにおける指定検定機関で繰り返されるおそれがある。 |
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