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日本計量新報 2017年4月2日 (3144号)

魚河岸の豊洲移転をめぐっての水質測定を考える

魚河岸とは魚市場であり、江戸幕府の下では日本橋から江戸橋にかけての河岸に魚市場があった。魚は江戸前で獲れてそれを岸に運びその岸に市場が建った。いまでも魚市場の多くはそのようにしてできている。京都などは海と岸が離れているから海から遠く離れた場所に魚の市場を立ててそこで取引される。

東京や大阪のように巨大な消費地が形成されると魚市場は重要になる。江戸前の魚を日本橋の岸辺に運んだ時代の物資輸送の主力は水運であった。今はトラック輸送である。正月の風物詩となった築地市場のマグロの初競りではそのうちの1本が2013年に15540万円をつけた。築地を含めて魚市場には国内外から多種類かつ大量の魚が集められる。競りによってその魚の価格が決まる。公正な価格形成の仕組みが競りを通じてなされる。市場には魚介類のほかにも野菜も集まる。野菜の方が多い市場もある。

東京都の築地市場が対岸の豊洲に移って営業することを巡って悶着がおきている。陸運によって全国から集まる魚や野菜など生鮮食材の市場をどこに置くかということだけの問題ではなくなっている。取りざたされているのは市場の敷地の土壌汚染の状況とそれが食品に及ぼす影響のことである。地下水に含まれる有害物質が害毒としてどれほどの度合いであるかということが取りざたされている。地下水は市場で使用しない。だから飲料水や市場で使う水として考えてはならないのであるが、テレビ報道と議論の様子をみるとこれが混同されている。

東京都江戸川区の平井付近では工場跡地から六価クロムがでて1970年ころに大騒ぎした。空襲の後の瓦礫が敷き詰められているのが東京の地面である。豊洲の東京電力の土地の汚染もまた避けられないものであるが、そこに市場を建てるときに何をどのようにしていれば心配なく使えるのかという観点を持つことが大事であろう。飲料水にも市場で使う水でもない地下水の状態がどの程度であればよいのかということである。自動車の排気ガスにも毒がある。何をどの程度ということを考えないとならない。

豊洲市場における水質測定を巡っては疑念があり、その疑念によって測定した最新の9度目の値が前8回の「安全」区域からでてしまった。水質測定が政治の道具のように手心をくわえるようにしてなされていたのではないかという疑念も強まる。

測定はその目的に添ってどのような計測器によってどのようにしてなすか、という測定の設計をしっかりして実施することが大事である。その測定が政治の意図によってある範囲に収まるようになされることがある。1970代の始めの田中角栄内閣のときに実施された、横須賀港での米原潜による核物質での水質汚染の測定がそれであった。このときには測定値が<RUBY CHAR="改竄","かいざん">されたことが国会審議で明らかになった。田中首相は質問者の不破哲三氏の提言を受けて環境計量士制度を創設した。

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