あたごくらぶ新春インタビュー
ノーベル物理学賞受賞・平成基礎科学財団理事長
小柴昌俊氏 インタビュー(1)
2008年12月11日 都内にて
|
小柴 昌俊
こしば・まさとし
1926年愛知県豊橋市生まれ。物理学者。
2002年「天体物理学とくに宇宙ニュートリノの検出に対するパイオニア的貢献」によりノーベル物理学賞を受賞。素粒子物理学・宇宙線物理学の分野で多大な業績を上げた。日本学士院会員。
1970年東京大学理学部教授。1974年高エネルギー物理学実験施設設立、施設長・センター長を務める。1983年岐阜県神岡鉱山跡に陽子崩壊の検出を主目的にした「カミオカンデ」をつくり観測を開始。1987年2月23日大マゼラン星雲内で起きた超新星SN1987Aからのニュートリノを「カミオカンデ」が検出。1987年東海大学理学部教授。2003年平成基礎科学財団を設立し理事長に就任し現在に至る。東京大学特別栄誉教授。 |
|
日本計量新報 2009年1月1日 (2755号)2部11面掲載
基礎科学のおもしろさがわかる教育を普及させたい
ぼくが理事長を務めている平成基礎科学財団をつくろうと思ったのは2002年9月のことでした。当時は、マスメディアで国立大学の独立行政法人化が取り上げられていたころ。ぼくは、独立行政法人化それ自体に反対するつもりはなかったのですが、心配な点もありました。
独立法人になれば、財政は独立採算制になるわけですが、そうなると採算のとれる分野、とれない分野で差が出てきてしまうのではないか。応用科学を担う工学部や農学部、薬学部などは、目に見えた成果があがりやすく、産学協同で進められるためお金の心配は少ない。
ところが、例えば文学部や理学部などは冷飯を食わされてしまうのではないか。
そんな日陰の学部に優れた人材が行くでしょうか。こうした基礎科学分野は、わからないことを知りたいという興味や関心から出発します。すぐに成果が出るわけではないので、産業界からのまとまった支援が期待できないのが実情です。
そこで、若い人たちに基礎科学の面白さがわかる教育を普及しようと、財団を立ち上げることを思い立ちました。しかし、財団をつくるには1億円の資金が必要です。当時、イスラエルのウルフ賞の賞金500万円が預金通帳にあるだけ。資金不足に加え、友人からも、この低金利時代、何十億円の財団でもヒーヒー言っているのに無謀だと言われました。
でも、ぼくは自分がやりたいと思ったことは、やめようと思えないんですね。どうしようかと思案していると、ストックホルムから電話がかかってきました。ノーベル賞の知らせです。賞金は3500万円。これで貯金と合わせて4000万円ができました。
いいところまできたと思い、カミオカンデの共同研究で付き合いのあった浜松ホトニクス(株)の社長さんにお願いしたところ、「わかりました」とその翌日に6000万円を振り込んでくれました。
|
|