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日本計量新報 2007年12月9日 (2703号)

上流インフレ・下流デフレ現象と計量器産業の行動

日本のはかり産業をはじめとする計量計測機器産業は、この数年鉄材など資材が高騰するなかでも製品価格の値上げはできないということが続いていたが、ここにきて石油価格の高騰が顕著になったことから、何らかの形で原材料価格の高騰を製品価格に反映するしかないという決断の時期がきたと考える企業が増えている。
 大型はかりのトラックスケールは、このはかりの載せ台を構成する重要部分が鉄材でできており、この部分の価格高騰がコスト上昇につながっている。しかし、これまで製品価格の値上げができないままで販売をしてきたため、企業努力によって売り上げを伸ばしているにもかかわらず利益が減少するという状態がいくつも企業で出現している。
 資材の値上がりをそのまま製品価格に反映させることは、どのような商品分野でも競争があるために簡単ではない。しかし、鉄よりもはるかに大きな値上がりをしている真ちゅうを部品とする圧力ゲージなどの産業分野では、もはや資材高を企業努力で吸収することは困難になり、製品の価格改定に踏み切る企業が出てきている。
 圧力ゲージの主要部品のブルドン管は真ちゅうでできている。圧力計メーカーが直接ブルドン管を製造しているのではなく、ブルドン管を専門に製造する専業メーカーがある。ここから供給されるブルドン管がすでに大きく値上げされているために、圧力ゲージの値上げをすることなしでは、企業活動の継続に大きな困難が生じる状況にあるのである。圧力ゲージの値上げを決断したある経営者は「資材の大きな値上がりへの正当な対応として製品価格の値上げに踏み切らざるを得なくなった。だからといって、実際の販売価格に実質の値上げ効果が現れるかというと、競争があるのでそれもまた困難なことである」と述べている。企業経営に波風は付きものであるが、このところの資材高に反転の見通しがないために、資材価格が製品価格の大きな要素になる製品分野では、値上げもやむを得ない状況に至っている。
 この何年か、鉄、アルミニウム、石油製品などの高騰がつづいていて、この分野の値動きだけをみるとインフレーションを感じさせる。その一方で、若い世代の勤労者における勤労所得の低下を反映した消費の伸び悩み状況は、デフレーションを思わせる。上流インフレ、下流デフレといった現象が日本社会でおきているといえよう。消費の不況は、勤労世帯全体としての所得が増えないことから発生しており、その要因の一つに若者世代の人口減少と団塊世代が勤労所得の立場から退きつつあることが挙げられる。そうしたことの総合的な影響が、日本の国内総生産の停滞となり、経済規模が微増にしか推移しないということにもつながっている。
 日本の経済社会に変動があるなかで企業活動を推進するにはこれにフィットするような進路の選択をすることになる。国内市場の停滞に影響されないように海外市場での活動を増大させている企業が少なくない。企業によっては、その性質から国内だけを、または特定地域だけを対象にしてきたところもある。こうした企業にとって、時代に合わせた舵取りは難しいが、北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州・沖縄といった少し大きな地域を対象に事業を展開して成功している企業もある。
 トラックスケールなどを含めたはかりのメンテナンスビジネスは、機動力の面から全国を対象としにくい反面、道路網の整備などによって、県単位のビジネスからもっと広いエリアを対象としたビジネスに転換することが可能になっている。悪い悪いといわれる国内の計量器産業のなかにあっても、確実に前進して企業業績を伸ばしている地場産業のはかり企業が多くある。静かな状況変化に対してより早く有効な対応をすることがビジネスの成功の秘訣なのである。


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