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日本計量新報 2008年8月31日 (2738号)

日本のエネルギーシステムと発電方法

「地球にやさしい」ことをうたう企業広報が目に付く。テレビもラジオもその他多くのマスコミも、「化石燃料の燃焼によって発生する炭酸ガス(CO2)が地球の放熱を防ぐ作用をするので地球の大気と海洋の温度が上昇し、人が住む環境が壊れ始めている」と合唱する。
 しかし、この要因は、人が20世紀になって急激に増えて化石燃料を大量に消費する経済社会構造ができてしまったからなので、「地球にやさしい」企業も人もほとんどいない。電気の使用量を家庭や会社事業所の事務室で意識して減らしたくらいでは、地球温暖化現象を止めるためにはほとんど役立たない。20世紀に入って以来、人工増加は一気に何十倍にも跳ね上がっていて、人の暮らしと経済を運営するために大量の化石燃料を燃焼させる仕組みができあがってしまっているのだ。産業の米といわれる鉄をつくるには、化石燃料による大きなエネルギーが要る。人の生活は家電製品を利用するためにも大量の電力を利用するようになっている。
 水素を酸素と反応させて動力(エネルギー)をつくりだす燃料電池システムが、炭酸ガスを出さないクリーンエネルギーとして期待されているのは良い。しかし、その水素を得るもっとも有効な原料が石油であるという、現在の技術上の問題点がある。電気を蓄えた蓄電池で自動車を走らせる方式は、現在は石油燃料を利用するエンジンと蓄電池を組み合わせたハイブリッド車が主流だが、今後は燃料電池車と蓄電池の組み合わせもありえるかもしれない。電気を蓄えた蓄電池を利用した自動車が現在の石油を利用した自動車に変わりうる、現実的で最有力な仕組みである。そうすると、電力をどのようにしてつくりだすかという場面で、炭酸ガスを排出しない仕組みが求められることになる。
 日本の発電電力量(一般電気事業用)は、9705億kWh(2004年度)であり、その内訳は水力970億kWh(構成比10・0%)、火力5860億kWh(構成比60・4%)、原子力2824億kWh(構成比29・1%)、新エネルギー51億kWh(構成比0・5%)である。水力発電の占める割合は10%であり、ある電力会社の場合にはこれが5%。この5%というのは送電によって生じる電力ロスに相当する。
 普通に考えると不思議なのは、この20年ほどの間に大小さまざまなダムが建設されているのに、このダムを利用しての発電が行われていないということだ。大きなダムでも発電のために使用できる水の量は限られていて、全体としてはもっと水が欲しい状態にある。日本の水力発電は、昼の時間の電力需要時に夜間に余った電力を利用して組み上げた水を使って不足分を補う仕組みになっている。構成比19・8%の原子力発電の4712万kWは常時同一の出力で運転され、昼間時の需要増に対しては、火力発電の出力を増やすのと水力発電によって対応する。ヨーロッパと比べると、日本は昼間と夜間の電力使用量の差が大きい。原子燃料のリサイクルの輪が完成しているフランスでは、軽水炉による原子力発電所が装置体数として2466基、ドイツでは2012基、日本では6基、スウェーデンでは3基が稼動している(2005年12月調べ。日本ではその後、新潟県中越沖地震の影響により東京電力の柏崎刈羽原子力発電所は停止中)。
 柏崎刈羽原子力発電所の建設地が適正か否かを判断する調査において、あらかじめ適正と回答されることが政治的な圧力として調査員の大学教員や研究者に課せられていて、反対意見など一切聞くことなく是としての回答がなされたことが、ラジオ放送で関係者である学者によって述べられた。このところ青森、岩手、宮城、新潟などで発生している大地震と活断層の関係を考えると、原子力発電の安全性に対する基準変更を余儀なくされることになる。現実に起こった新潟県中越沖地震による柏崎刈羽原子力発電所の設備への影響の余波は大きく、まったくの失言とはいえ「いい経験をさせてもらった」という地震当時の東京電力社長の発言はひんしゅくをかった。
 家電関係の技術の進歩によって、家電が消費する電力量は平均してこの20年ほどの間に半分になっている。計量計測機器関連でも、電子ハカリと電子天びんで電力消費量を極度に小さくする方式の製品が開発されている。計測器自体の「省エネ」対応は大いに褒められるとして、もっと褒められることは、計量計測機器や計測技術が炭酸ガスを排出しないエネルギー創出方法の開発を手助けをすることである。計測の世界では、計測標準の連鎖をトレーサビリティーとしてとらえてトレーサビリティー理論をつくりだし、その後の計測の管理に有効な手立てを講じてきた。エネルギーに関しても食のトレーサビリティーと同じようにエネルギーのトレーサビリティーがつくられることになる。あなたが使っているそのエネルギーのルーツは中東の油であるか、太陽光発電であるか風力発電であるかというように。
 それにしても化石燃料をエネルギー源にして「豊かさ」を実現してきた人々(人類)がその方式から脱却しなくてはならなくなっているのだから皮肉なものである。地球温暖化への対応は、エネルギーを得る仕組みの改革と改善策ということであり、その責任の大半は国と国際社会にあるものだ。個々人はこのことで矢鱈に身を小さくすることはない。


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