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日本計量新報 2008年11月23日 (2750号)

計量行政は社会の安全機能であり社会の安全機構である

国がどのような体制であっても保有しているべき機能として徴税、警察、国防の三つがある。
 徴税は、農業が社会の主要産業であった時代には穀物等の収穫物の物納が主であったため、徴税の同語として枡(ます)が用いられていた。尺(さし)・枡(ます)・秤(はかり)のうち枡が徴税と不可分であり、枡はその時代には国であった藩によって厳重に管理されていた。徴税と計量器の密接で歴史的な関係を、枡はよく示している。
 現在でもガソリンなど石油類は取引価格の20%を超える部分が税金として徴収される。ガソリン計量器は徴税機械であるから、規模と内容に変化はあるものの江戸時代の枡と同じ役割を担っていることになる。また、酒などアルコール飲料はアルコールの量などに応じた課税であり、その容量(質量)とアルコール度を計量することによって徴税されるから、このために用いられる比重計や計量器は江戸時代までの枡と同じような役割を果たしている。
 計量技術も産業活動の基本要素として大きな役割を担っている。現在の産業活動から計量技術を除去することを想定すると、すべてが瓦解(がかい)する。計量制度は計量の技術的要素を基本にした、産業と国民の社会生活を円滑に機能させるための基盤的制度である。そうした社会基盤制度としての計量制度は、総合すると徴税と警察ならびに防衛の機能に類する国家の基本となる制度であり、単純な行政サービス機能とは別の種類なり次元のものだ。その基本は国が一元的に制定し管理すべき内容を保有しており、計量を通じて生活者(国民・市民)福祉を増進させる一部の計量サービスとは違う。
 計量器の性能を維持・担保するための検定制度などは全国一律に実施されるのが基本である。ところが、基本性格が機関委任事務であるべき計量行政を間違って地方公共団体の事務である自治事務に移し替えたことによって、質量計(はかり)などの定期検査の実施に検査漏れや検査のサボタージュが発生している。
 こうした指摘に不満を抱いたり間違いだと思う者は、定期検査の対象となる取り引きならびに証明用のハカリ(質量計)の実態を取り引き証明用のハカリを使うべき場所に設置されているハカリとその定期検査の実施状況をつぶさに調査したらよい。
 現在の計量法の検定制度は検定付きのハカリを使用する義務が使用者の側にあり、その定期検査受検義務も使用者側にあるため「使用者検定」といわれている。この制度の仕組みの理解に乏しい計量器の使用者は、検定付きのハカリを使用するべき状況下で検定定付きではないハカリを使用し、2年に1度の定期検査を受検することもなく取引証明にそのハカリを使っている。検定が付されていないハカリは、実際には定期検査を受検することができない。
 こうしたハカリの定期検査の実施状況は、計量法の規定とそれを実施する計量行政の、あってはならない様(さま)をそのまま表している。計量行政機関が指定した計量協会などの指定定期検査機関が、予算の身勝手な削減によってなすべき定期検査を実質上放棄したり、あるいは検査業務その他を無料奉仕せざるを得ない状態になっているのでは、計量行政の主体である地方公共団体の計量行政の投げ捨てと責任放棄という以外にどのような言葉を用いることができるであろうか。
 計量行政の本体は社会の安全機能であるから、計量行政は社会の安全機構である。住民福祉の直接的な増進に役立つサービス業務として行政機能に追加されたさまざまなサービス行政とひきかえに、税収が減っていることを理由に計量行政費用を大幅に削減し、地方公共団体から計量行政機能をなくしてしまう方向に突き進んでいる現在の状況は、社会の安全を捨て去ることと同じだ。
 大幅な費用削減の背景には、住民サービスの向上として保育行政などの直接的な行政サービスの推進が必要に迫られていたこともあるが、実のところ地方議員や自治体の長の選挙対策の意味も含まれていた。計量行政を、膨(ふく)らみすぎた行政機構の縮小の道づれにしてはならない。


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