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特集記事  

信頼できる測定には計量のトレーサビリティが必要
JCSS登録校正事業者の利用が望ましい

便利な校正分銅内蔵の天びん

信頼が置ける質量の測定には、どんな要素が必要だろうか。
 一つは、測定環境の整備である。質量を計る天びんは、その精密さが増せば増すほど、きちんとした環境のもとで測定しないと、天びんが本来持っている性能(カタログ等に記載されている性能)を発揮することはできない。
 別項の正しく測定するための対策で述べているように、重力加速度の影響、空気浮力の影響、傾斜誤差、温度誤差、静電気による誤差などをなくす環境を構築することが必要である。
 第2は、測定者の測定能力である。これはどうも適、不適の要素が大きく、訓練してもある程度以上の改善は見込めないことが明らかになっている。丁寧に、慎重に測定することというほかはない。
 第3は、天びんそのものが正確であるかどうかということである。使用前に、天びんの精密さに合わせた時間通電したり、天びんを室温になじませた後、使用前に必ずキャリブレーション(校正)をするという日常点検が重要であり、校正分銅内蔵形の電子天びん、完全自動校正形や毎日決まった時間に自動校正する機種が便利である。

測定値の信頼性は何で保証されるか

 しかし、天びんの測定値が信頼できることは何によって保証されるのか。それが「計量のトレーサビリティ(Metrological Traceability)」である。これは現場で使用する天びんが、社内の標準の天びんで校正され、さらにそれがより上位の天びんによって校正されるように、順次上位の計量標準によって測定結果の信頼性が確保されるという階層的な連鎖を意味している。分銅の場合も同じである。
 厳密にいうと、国際計量用語集(VIM)の定義では「測定の不確かさに寄与し、文書化された、切れ目のない個々の校正の連鎖を通して、測定結果を表記された計量参照に関係付けることができる測定結果の性質」ということになる。JISの『計測用語』(JISZ8103:2000)では「不確かさがすべて表記された切れ目のない比較の連鎖によって、決められた基準に結びつけられ得る測定結果又は標準の値の性質。基準は通常、国家標準又は国際標準である」とされている。
 「測定の不確かさ(measurement uncertainty)」とは、「用いる情報に基づいて、測定対象量に帰属する量の値のばらつきを特性付けるパラメータ」という意味である。
 食品の安全確保を図る製造方法としての国際的な標準であるHACCPや、天びんがよく使われる製薬などの分野におけるGLP(試験実施適正基準)やGMP(医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準)、品質マネジメントシステムのISO9000シリーズなどで計量のトレーサビリティが必要とされてきている。天びんもGLP出力などを備えているものが多くなっている。
※この項、(3)につづく

活用分野の広がる防塵防水天びん

 精密機械の天びん・はかりは、水平な接地面や一定の温湿度を保つ空調、防振装置・設備など整備された環境下で、はじめて100%のパフォーマンスを発揮する。
 しかし、現場においては、水・ホコリ等が機器にかかることが当たり前で、そのような環境下でも100%の性能が要求される。また、薬品を扱う現場などでは、安全面から水で丸洗いできる機器が求められるようになっている。
 そうした中、過酷な環境下にも対応でき、水で洗浄できる防水(防塵)天びんの重要度が高まってきている。
 上部からのみの流水ぐらいなら充分防水性を発揮する機種から、縦・横・斜めからの放水にも耐えられる高い防水性をもつ機種まであり、最近ではIP65以上の防塵防水等級を持つものも登場している。

防塵・防水性能に関する保護等級

IPとは、国際電気標準会議(IEC)および日本工業規格(JIS)が定める、電気機器内への異物の侵入に対する保護等級。第1記号(耐塵性=人体および固形物に対する保護等級0〜6)と第2記号(防水性=水の侵入に対する保護等級0〜8)からなる。
 「防塵」は第一記号の等級6以上。「防滴」は第二記号の等級1〜2を、「防水」は第二記号の等級6を指す。
 以下に、第2記号の分類を示す。
▽等級0=無保護(特に保護されていない。)▽等級1=滴下する水に対する保護(鉛直に落下する水滴によって有害な影響をうけない。)▽等級2=15度傾斜した時落下する水に対する保護(正常な取付位置より15度以内の範囲で傾斜したとき、鉛直に落下する水滴によって有害な影響をうけない。)▽等級3=噴霧水に対する保護(鉛直から60度以内の噴霧状に落下する水によって有害な影響をうけない。)▽等級4=飛沫に対する保護(いかなる方向からの水の飛沫によっても有害な影響をうけない。)▽等級5=噴流水に対する保護(いかなる方向からの水の直接噴流によっても有害な影響をうけない。)▽等級6=波浪に対する保護(波浪または、いかなる方向からの水の強い直接噴流によっても有害な影響をうけない。)▽等級7=水中への浸漬に対する保護(規定の圧力、時間で水中に浸漬しても有害な影響をうけない。)▽等級8=水没に対する保護(製造者によって規定される条件に従って、連続的に水中に置かれる場合に適する。原則として完全密閉構造である。)▽×=特性表示なし(IP規格適応外)

注意点を知って誤差のない測定を

 精密測定になればなるほど、正しく測定することを妨害する要因に対する対策が必要になってくる。妨害要因をひとつひとつ解消することで高精度測定を実現できる。
 精密な測定に影響を与える主要な要因を見てみよう。
□重力加速度の影響
 物体の重量は重力の加速度に比例して定まること、しかも電子天びんの使用場所により重力の加速度の大きさが異なる。
 したがって、移転等で電子天びんの設置場所を変更した場合には、その場所で再度正しい分銅を載せ、調整し直す必要がある。
 こうした煩わしさをさけるために、各メーカーは校正分銅(おもり)内蔵形の天びんを考案している。
□空気浮力の影響
 高精度の測定をしようと思えば、空気浮力の影響は無視できない。密度が異なる同じ質量の物体を計測すると、空気浮力の影響のため、指示値が異なってしまう。
 分析天びんには試料の密度を入力するだけで、自動的に空気浮力を補正するプログラムを組み込んだ機種も登場している。
□傾斜誤差
 天びんは設置時の水平状態の差により、零点、スパンが変化する。測定原理、機種、傾斜の方向等で複雑に変化する。水平を正しくとることが重要である。
□温度誤差
 荷重に対する弾性抵抗や復元力を有する起歪体、板ばね支点の弾性係数の温度による変化も影響する。機構各部の材質の差による熱膨張の差も温度特性に対する影響が大きい。
 温度誤差は電気的な要因によっても発生する。熱起電力、直流増幅器、A/D変換器、磁石の特性の温度による変化など、多岐にわたる。また、電子天びんの温度誤差は環境(室温)、室温の変化率、使用状況なども関係してくるので、より複雑である。
 したがって、電子天びんでは、一部の機種をのぞいて、起電後十分に時間をおいて、内部の温度バランスがとれて以降、計測前に分銅による校正を実施してから使用することが望ましい。
 メーカーも機構上に起因する問題に対しては改良を続けており、ワンブロック構造のひょう量セルの開発などは、この問題に対する回答の一つである。
 また、校正機能の面からは、内蔵分銅による自動校正機能を搭載した機種が増えている。
 天びんが感度に影響を及ぼす室温の変化をキャッチし、内蔵分銅により自動的に校正を開始する機種や、あらかじめ設定した時刻に天びんが
内蔵分銅により校正を開始する、つまり測定作業
の前(例えば朝の始業前、昼休み、夕方休み等)に校正時刻を設定しておけば、天びんがその時刻に自動的に校正を開始する定時校正機能を搭載した機種もある。
□振動誤差
 エアコンからの風による影響も同様である。電子天びんは、機構や回路設計を工夫して、状況に適した動的なデータ処理をおこない、振動の影響を可能な限り排除する設計になっているが、精密測定は振動の少ない環境でおこなう必要がある。精密天びんの性能を発揮させるには、防振(震)台が必要になる。
□静電気による誤差
 湿度が50%以下になると帯電しやすくなり、静電気の吸引力や反発力により正しく測定できないことがある。プラスチックやガラスなど帯電しやすいものを測定する際は注意が必要である。
 静電気を最小限に抑える対策、機能を施した機種も登場している。
 精密計測を困難にする誤差要因は、このほかにも偏置誤差、分銅による誤差、気圧変化、湿度変化、電源変動、電磁波障害など、数多く存在する。
 精密計測は大変な作業である。影響を受ける度合いは各要因、機種によってさまざまである。正確な測定には、天びんに関する正しい理解、測定対象物に対する理解、測定環境への理解が欠かせない。

電子はかり点検のすすめ

 電子はかりは、「長時間の使用」や「置き場所の移動」、また「よごれ」などにより重量表示にズレ(誤差)が発生することがある。正しく計量できているかどうか確認するため、常に点検する必要がある。
 また、ここ数年来、ISO9000の普及、GMPの改正など、様々な方面から信頼性のある精度維持管理が求められている。
 国際的にも、計測マネジメントシステムとして、測定器の管理と測定プロセス(測定手順、要員)の保証に関する要求事項が記載されたISO10012が発行され、計測機器の管理が注目されている。

点検・検査のルールを決める

電子はかりの点検・検査を計量士や計量器事業者など専門家に依頼すれば、精度が良く信頼できる点検・検査が行える。
 しかし、電子はかりが常に正しく計量できているか信頼性を向上させるためには、常日頃からの点検・検査が必要。
 点検には、電子はかりを使用する前に行う「日常点検」と一定の時期または使用期間を定めて実施する「定期点検」がある。また、「定期点検」の検査項目を増やしてより正確な点検を実施する「定期検査」がある。一般的に、「日常点検」や「定期点検」は担当者が行い、「定期検査」は管理者が行う。
 あらかじめ、日常点検・定期点検を実施する担当者と定期検査を実施する管理者を決め、点検・検査の方法や実施時期などのルールを定め、マニュアル化しておくと良い。
日常点検・定期点検・定期検査の実施方法
 それぞれの点検・検査方法は以下の通り。
▽日常点検=@設置状態(水平)の確認A計量皿やその周辺の汚れ、異物の有無の確認Bゼロ点の戻り確認C普段測定している重量の分銅を載せ、重量表示を確認
▽定期点検=日常点検の点検項目に加えて、Dひょう量の分銅を載せ、重量表示を確認Eひょう量の2分の1の分銅を載せ、重量表示を確認。季節の変わり目など、実施月をあらかじめ決めておくと良い。
▽定期検査=定期点検の点検項目にさらに加えて、F繰り返し性の確認G偏置誤差の確認H直線性の確認。実施月を決めて、年に一度は実施する。
 なお、特定計量器(注)の場合は、法律で定められた検査を2年に1度受ける必要がある。
 特定計量器の定期検査は、都道府県知事または特定市町村の長が行う「定期検査」を受ける方法と、「定期検査に代わる計量士による検査」を受ける方法がある。
(注)特定計量器とは、取引又は証明に使用する場合において、適正な計量を確保することが社会的に求められる計量器および一般消費者の日常生活における適正な計量実施の確保が求められる計量器を示す。薬局の調剤や食肉の量り売りなどがこれに該当する。

 

 

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