節電対策と同時に、熱中症対策も
高齢者・幼児は特に注意が必要
熱中症は増加傾向
日に日に暑くなり、夏に向けて節電への意識が高まる一方で、熱中症への懸念も増している。
気温が上昇すると、人体は発汗や皮膚に血液を集めるなどの体温調節機能によって、体温を保とうとする。しかし、調節機能が追いつかず、脱水や塩分不足、体温の著しい上昇などが起こる。このような状態を熱中症という。
記録的な猛暑だった昨年7〜9月の熱中症による救急搬送人員は、全国で5万3843人(総務省消防庁)。これは、09年の4・15倍、08年の2・3倍にあたる。また、熱中症による死亡者数は1718人にのぼり(厚生労働省「人口動態統計」)、統計をとりはじめた1964年以降最多となっている。
熱中症と気象条件には、相関関係がある。最高気温が30度以上の真夏日や、夜間の最低気温が25度以上の熱帯夜が多くなると、熱中症による死亡者の数も増える傾向にある。ここ数年、温暖化やヒートアイランド現象の影響によって真夏日や熱帯夜の日数が増えているため、熱中症の危険性も以前より増加しているといえる。
高齢者は特に高リスク
救急搬送人員の年齢区分を見ると、65歳以上が、2万5003人、46・4%と最も多い。熱中症死亡者数を占める割合も7割におよび、高齢者の熱中症患者は近年増加傾向にある。
高齢者は、体温調節機能の衰え、体内水分量の減少、暑さに対する循環器系の耐性の低下により、若年者よりも熱中症にかかるリスクが高いためである。
「熱中症病床」の設置
このような状況を踏まえ、東京都は、高齢者らを対象にした熱中症対策に乗り出した。
電力不足による節電気運が広がる今夏、高齢者の熱中症による死亡者増加を防ぐため、都内11の医療機関に「熱中症病床」を初めて設置する。1病院あたり2〜3床のベッドを用意。病院側の受入拒否により、重症の熱中症患者が「たらい回し」になることを避ける狙いがある。
幼児は周囲が注意
幼児も、体温調節機能が十分に発達していないうえ、身長が低いことから地面の照り返しによる高温に晒されるため、熱中症発生のリスクが高い。また、喉の渇きに気付かず夢中になって遊んでいることもある。周囲の注意が必要である。
労働場面での熱中症
30歳〜59歳の男性の熱中症は、労働場面での発生が最も多い。過去3年間(08〜10年)の業種別発生状況を見ると、建設業が全体の4割と最も多く、次いで製造業が全体の約2割を占めている(厚生労働省)。
しかし、今夏の節電気運は、労働場面における熱中症リスクにも大きな影響を与えると考えられる。
7月1日から、東京電力および東北電力の大口需要家に対する電気の使用制限が始まる。また、小口需要家にも節電の実施を呼びかけている。
節電対策の一環として、冷房の控えめな使用が推奨されるが、その一方で、職場での熱中症患者の増加が懸念される。これまでは、建設業や製造業など屋外や炉のある工場などでの作業中に発生するケースが多いとみられたが、今年はそれ以外の労働環境でも発生するおそれがある。
厚生労働省は、このような状況を鑑み、熱中症に対する予防対策を重点的に実施することにした。この対策に基づき、都道府県労働局・労働基準監督署による事業場への指導、ポスターやパンフレットの配布などの取り組みを推進する予定である。
気象庁「高温注意情報」7月中旬〜
同じく、節電の実施による熱中症発生の危険性の高まりを受け、気象庁は、気温35度以上の「猛暑日」が見込まれる前日に注意を呼び掛ける「高温注意情報」を新たに設けることにした。
電力の供給に特段問題がない北海道と沖縄県を除く地域が対象。関東甲信や東北といった「地方」ごとのほか、「都府県」ごとにも発表する。7月中旬からスタート予定。
暑さ指数計の活用を
熱中症の注意レベルを簡単に素早く、また分かり易く計って知らせる熱中症暑さ指数計(暑さ指数モニター、暑さ指標計)が、数社から発売されている。注意レベルの高い時は、意識的に水分を摂り、脱水状態に陥らないよう心がけたい。
熱中症予防のチェック項目
(1)暑さを避ける
□ 日傘や帽子を使う。
□ 日陰を選んで歩く。
□ ブラインドやすだれを垂らす。
□ エアコンの設定温度は28℃に。設定温度が高すぎても危険だが、低すぎると外気温との温度差が大きくなり、出入りする際、体に負担がかかる。
□ 暑さ指数計を活用する。
(2)服装を工夫する
□ 吸汗・速乾素材を着用し、黒色系の素材を避ける。
(3)こまめに水分補給
□ 体温調節には、しっかり汗をかき、汗で失った水分・塩分をこまめに補給することが重要。
□ 軽い脱水症状のときはのどの渇きを感じない。のどが渇く前、暑いところに出る前に水分補給を。
□ ビールなどのアルコールは水分補給にならない。尿の量を増やし、体内の水分を排出してしまう。
(4)急に暑くなる日に注意
□ 人間が上手に発汗できるようになるためには、暑さへの慣れ(暑熱順化)が必要。暑くなり始める梅雨前後、急に気温が上がる日、熱帯夜の翌日は特に注意。
(5)暑さに備えた体づくり
□ 本格的な夏までに、血液量を増加させ、体温調節機能を改善する。
□ 気温25〜30℃、湿度50〜70%の環境で、「ややきつい」と感じる程度の運動を1日30分、週3回行う。
(6)個人の状況を考慮する
□ 体調不良や寝不足の人、二日酔いの人は熱中症になりやすい。暑い場所での活動を軽減する。
□ スポーツ活動中は、運動前後の体重を測り、減少した分の水を飲んで調節する。30分に1回程度休憩する。
□ 高齢者は熱中症のリスクが高い。のどが渇かなくても水分補給し、部屋の温度をこまめに測る。
□ 幼児は周囲が十分に観察し、水をこまめに飲ませる。
(7)集団活動の場ではお互いに配慮を
□ 監督者を置き、その日の暑さに合わせて計画的に休憩を指示する。
□ 体調不良の場合は気軽に申告を。
□ 建設業、製造業など、熱中症の発生数が多い職場では、熱中症予防対策を実施。WBGT値の計測や管理者による巡視などを徹底する。
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