現代の日本の人々が「情報」という言葉を簡単に使っていることは好ましいことでではない。「情報」とは国語辞書では、 (1)ある物事の内容や事情についての知らせ。インフォメーション。 (2)文字・数字などの記号やシンボルの媒体によって伝達され、受け手に状況に対する知識や適切な判断を生じさせるもの。 (3)生体系が働くための指令や信号。神経系の神経情報、内分泌系のホルモン情報、遺伝情報など。 と3つのことを述べている。 IT用語辞典では「情報」そのものの解説はなく、次のようないくつかの情報に関係する事項を紹介している。 (1)【情報システム(information system)】とは、情報を適切に保存・管理・流通するための仕組み。通常、コンピュータとネットワーク、およびそれを制御するソフトウェア、その運用体制までを含んだものを指す。コンピュータを用いない「情報システム」は、言葉の意味として矛盾しているわけではないが、現代ではほとんどの場合、情報システムは「コンピュータシステム」と同義として用いられる。 (2)【情報リテラシー(information literacy)】とは、情報を使いこなす能力のこと。体験やメディアを通じて得られる大量の情報の中から必要なものを探し出し、課題に即して組み合わせたり加工したりして、意思決定したり結果を表現したりするための基礎的な知識や技能の集合である。関連する領域として、メディアを使いこなす能力「メディアリテラシー」と、コンピュータをはじめとするIT技術を使いこなす「コンピュータリテラシー」がある。前者はメディアを利用した情報の取得・解釈と表現に重点が置かれており、後者はIT技術の活用を重視する。情報リテラシーと密接に関連するものではあるが、まったく同一のものではない。 (3)【情報技術(information technology)】とは、コンピュータやデータ通信に関する技術を総称的に表す語。 (4)【情報エントロピー(information entropy)】とは、物理学のエントロピーの概念を、情報量の定義指標として情報理論に導入したもの。情報科学の祖と言われる(クロード・シャノン)氏が1948年に考案した理論の一部で、その後の情報科学の発展に大きく寄与した。物理学のエントロピーは「乱雑さ」とも訳され、物質やエネルギーの局在(偏り)の度合いを表す。例えば、水の入ったコップにインクをたらすと、最初はインクの分子は水の中のある部分に「もや」のようにかたまっている。これが「エントロピーの低い状態」である。しかし、時間の経過とともにインクはコップ全体に行き渡り、やがで均一な色になる。この状態が「エントロピーの高い状態」である。自然界では、エントロピーは系全体としては減少することなく、時間とともに増加を続ける。これが物理学の「熱力学第2法則」である。情報科学の分野では、このエントロピーを「事象の不確かさ」として考え、ある情報による不確かさの減少分が、その情報の「情報量」であると考える。情報を受け取る前後の不確かさの相対値を「情報エントロピー」という。例えば、サイコロを振ったとき、結果を見る前はどの目が出たかまったく分からないので、不確かさ「情報エントロピー」は最大である。「奇数の目が出た」という「情報」を受け取ると、「情報エントロピー」は減少する。「1の目が出た」ことを知れば、結果は一意に確定し、「情報エントロピー」は最小となる。 (5)【情報弱者(information shortfall)】とは、様々な理由から、パソコンやインターネットをはじめとする情報・通信技術の利用に困難を抱える人。情報技術を活用できる層と情報弱者の間に社会的・経済的格差が生じ、あるいは格差が拡大していく現象を「デジタルデバイド」という。情報弱者は、典型的には、低所得者や高齢者、視聴覚障害者などがこれにあたる。文脈によっては、通信インフラの整備が遅れがちな離島や山間部の住民、発展途上国の国民などを指すこともある。情報弱者を生まないためには、一つには、教育や収入などの社会的階層によらずに情報技術を利用できる環境作りが必要である。公共の場所(例えば図書館)に誰でも自由に使える情報端末を整備したり、安価もしくは無償で提供される教育機会(「IT講習会」など)が必要とされている。アメリカでは、こうした問題に積極的に取り組むNPOがたくさんあり、行政も様々な施策を実行している。また、体に障害があることによって「情報弱者」となっている人たちに対する取り組みとして「情報のバリアフリー化」が提唱され、様々な取り組みがなされている。視聴覚が不自由な人でもアクセスしやすいWebページを作ることや、障害をもった人たちにとって必要な情報を用意することなどが必要である。情報へのアクセスには通信インフラが重要な役割を果たすため、通信事業のユニバーサルサービス(全国均一のサービス)を維持したり、発展途上国の通信インフラ整備を援助することも、情報弱者を生まないために重要な点といえる。2000年7月の九州・沖縄サミットではデジタルデバイドが議題に挙げられ、情報弱者への支援とデジタルデバイドの克服が重要課題とされた。 (6)以上のほかにいくつかの項目を挙げて説明している。 情報に関係してIT用語辞典の「情報」の項目を長く引用したのは、この分野の知識に触れておいて損はないからである。 情報に関係した用語として【ニュース(news)】があり、国語辞書は、 (1)新しく一般にはまだ知られていないできごとや情報。 (2)新聞・ラジオ・テレビなどでの報道。 とあり、ニュースも情報であるとされている。 「情報」という言い方は社会事象を含めてこのようなことを指してしまうから、できるだけ細かに、知識とか技術とかニュースとかの言い方と伝え方をするのが賢い人の言葉の使い方である。 英語のインフォメーション(information)とコミュニケーション(communication)とはよく似た概念である。国語辞書ではコミュニケーションは、(1)社会生活を営む人間が互いに意思や感情、思考を伝達し合うこと。言語・文字・身振りなどを媒介として行われる。(2)動物どうしの間で行われる、身振りや音声などによる情報伝達。とある。 コミュニケーションズ(communications)という言葉は、日本語では「兵站(へいたん)」である。兵站の国語辞書の説明は「戦闘部隊の後方にあって、人員・兵器・食糧などの前送・補給にあたり、また後方連絡線の確保にあたる活動機能」とある。 かつての電子技術総合研究所の所長が「計量制度は社会の兵站である」と本紙への寄稿で述べていた。計量計測機器産業と計測技術そのものは産業と社会の兵站であることは間違いない。日本計量新報社の新聞報道ならびに各種のWebサイトは表紙アクセス・カウンターの総合計は1千万件を超えており、計量計測関係のこの種のカウンターの最大のものでも60万件を超えていないことを考え合わせると、計量制度や計量法や計量技術や計量計測機器産業の情報を取り扱う日本計量新報社の情報事業は社会と産業と文化活動のための兵站として良く機能している。