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日本計量新報 2007年6月24日 (2680号)

計測要求を満足する精密さの実現こそ計測の神髄である

この世の中に絶対に正しい計測は存在しない。世の計測とはだいたいは比べることで成り立っている。比べるとは、何かと何かの差を求めたり、一致を求めたりすることである。長さも質量も、ある元としての基準となるモノとの比較で求められる。比較の巧みさが精密さである。「はかる」ことの基本は比較することであり、そのほかに日本語の表現として並べる、釣り合わせる、うつす、数える、見る・見せる、揃えるなども「はかる」ことに通じる。
 比べるということで精密な計測をしようとする場合に、比べる対象となる元となる基準そのものに曖昧さがあることを知っておく必要がある。質量の元となっている基準は国際キログラム原器の1キログラムとし、この1キログラムの何桁か下の部分の数字は原器の金属の酸化やゴミなど付着によって常に微妙に揺れ動いている。質量の産業計測の欲求は揺れ動く数値の更に何桁も上の数値であるので標準としての要求は満足されている。計測とは比べることであり、質量は比べることであるいは釣り合わせることで求めており、その比較のための装置がハカリや天びんである。比較装置としてのハカリや天びんには比較の精密さの度合いがあり、それが一般にいわれる精度である。
 長さの計測の場合にも巻き尺で測ることができる精密さと、ノギスで計ることができる精密さと、マイクロメーターで計測の精密さが異なり、計測の性質に応じて比較装置としてのモノサシ(長さ計)を選択する。一般のレーザー測長器はマイクロメーターほどには小さな長さを求めることはできないが、マイクロメーターには計れない非常に大きな長さを測ると同時にそれを更に細かに測ることができる(長さ標準はレーザーによって実現されており、巧みに仕組まれたレーザー測超装置は現実的には最高の精密さをもつ長さ標準となる)。
 質量をはかる装置としてのハカリは、分銅によって性能としての精密さを確認する。分銅はハカリをはかる道具である。分銅には精密さの度合いで何段階かの等級が付けられていて、その最上級のものが国際キログラム原器である。上位の分銅と比較して下位の分銅の精密さが確認される。比較はハカリ(天びん)で行うから少しこんがらかってしまうが、これは質量計測の原理でもある。ハカリは質量の値を実現した分銅によって手軽に性能を確認できるから便利である。長さ計測におけるマイクロメーターの性能を確認する道具がブロックケージである。ブロックゲージも精密に値付けられた分銅も一般の産業計測分野の現場標準器として用いれている。
 計量の標準になる標準器にはそもそもある種の誤差をもっている。誤差のある標準器と比較して別の標準器が値付けられ、その標準器と比較して計量器の性能が確認されるのだから、どの分野の計測にも誤差がついて回る。上位の標準器とそれによって性能を確認される下位の標準器の間にはある必要は数値割合が保たれている。性能を確認する計量器とその標準器と必要な数値割合をもっていなくてはならない。
 どのような計測の標準器の、そしてどのような計測器にも誤差はついて回る。どのような精密さの計測をするのかによって計測器の性能が選定される。計測器の選定は計測要求に対応する。計測は精密であればあるほどよいという考えは間違っている。計測要求を満足する精密さの実現こそ計測の神髄である。


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