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日本計量新報 2008年2月10日 (2710号)

「デジタルの計測器はやらない」決意をした企業の成功行動

情報技術を「IT」と称して情報社会の代名詞のように使っていた時期があったのは記憶に新しい。「情報技術IT」とは、とある企業がアメリカで一番有名な大学に資金を提供して広めた用語だということのようであるから、日本人と訳知り風の技術者と知識人などは随分と愚弄され、かつ踊らされたものだ。
 活版印刷のない時代にはイエスやマホメットや釈迦や孔子の言葉あるいは思想は使者によって伝達された。本ができてもその輸送には馬車などを利用するので時間を要したし、機関車による鉄道輸送も時間概念としてはこの領域を出ない。時間的な概念あるいはスピードの面で電気通信は手紙などによる情報の輸送に大きな変化をもたらした。そして電話、ラジオ、テレビと通信手段は変わり、情報伝達の面でのインターネットの利用によって情報社会への道は大きく切り開かれた。
 アルビン・トフラーは人類の歴史を産業別に農業社会、工業社会、情報社会にわけてとらえており、いまは情報社会に移りつつあるという理解をしている。情報が現代の経済社会にどのような役割を持つのかは人それぞれに受けとめ方や考え方の違いがあるものの、パソコン抜きの会計処理はあり得ないし、現代社会の重要な産業の生産物である自動車の場合にも、エンジン、ブレーキその他の機構が計測器などと連動してコンピュータによって制御されている。ナビゲーションシステムを含めるとパソコン仕掛けによって自動車は走る装置を形成している。
 計量計測機器産業に属するある企業はデジタル化に対応する技術と市場を研究し製品を試作した結果、その企業の企業規模、販売能力、資本力、その他を考慮して「デジタルはやらない」という結論を出している。それから10年を経たその企業はどうなっているか。広がらない市場で旧来のアナログ計測器をつくり続けているもののこの分野での利益は大してあがらない。デジタルの計測器の開発と販売に仕向けることを考えた能力を別の事業分野に投入してきた。その事業は液晶装置用露光装置、IC装置用露光装置、プリント基板用露光装置などの製造販売である。この事業は技術者でもある経営者の才覚によって順調に売り上げを伸ばしている。競争相手は実質上ないのと同じであり、隙間の分野に産業を築き上げている。その基本技術は大学の教員から提供されたものであるが、それを事業に仕立て上げるためには事業への夢、技術への夢、市場をつくり出す情熱、執念がなくてはならない。それを成し遂げたこの企業と経営者はあっぱれである。内容は違うが類似の製品を地道に製造している計量計測機器の大手企業もある。
 「デジタルの計測器の事業分野に手を出さない」ことを決めた企業が取った行動はデジタル製品をつくり出すための器械の製造であった。パソコンの土台となるハードウエアのその基礎はトランジスタである。パソコンの土台のもう一つはソフトウエアである。コンピュータハードウエアの巨人のIBMがソフトウエアの小さな子供であったマイクロソフトに収益力に劣るようになったものの、いまでは経営ノウハウなど情報サービス分野で新しい大きな前進を見せている。産業と経済が情報という内容を重要な要素として新しい軌道に移っていることは間違いない。


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